強い権限を持ちながらそれを行使しない市長が多い

安冨 今のお話を聞いてると、市民と役所がちゃんと接続している、職員と市長もつながっていることがよくわかります。日本社会ではそのこと自体が「異常事態」なんです。地方政府においては、まず市長は全員から排除されていて、なるべく余計なことをしないように監視されて、情報が市長に流れないように職員たちがガードしている。そのトップに副市長がいて、市民はノイジーなもめごとを持ち込んでくる厄介者であると考えている。だからできるだけ市民が市役所に来ないようにして、税金だけ取る。これが日本の地方社会、地方政治の基本だと思うんですよ。

子どもを守る政治「明石モデル」をまねる自治体が増える一方、それらが市民に響かない本当の理由 泉房穂×安冨歩_5
かつて国政選挙や市長選に立候補したこともある安冨氏
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 そうそうそう、おっしゃるとおりです。
 
安冨 だからうるさいやつに金や特権を握らせる。例えば道路を敷いてもらった地主の一族は必ず就職できたり、順番を優先されたり、利権の巣窟みたいになっています。少し前までの明石市は典型的にその極限までいっているような市だったと思うんですが、それが僅か12年でここまで改革できるとは……これはもう奇跡としか言いようがない。

 わずか12年と言っても最初の6年間ぐらいは完全総スカン状態で、よう持ちこたえたと思う。その時期を過ぎて明石の市民が一気に手のひら返しでいい意味でぐっと変わりましたが、明石以外は気づかないので、私への強いバッシングが続きました。今はやっと全国に広がり始めて大きな流れが来ているので、それはよかったなと心底思っています。

安冨 しかし、市長というのは非常に強い権限があるにもかかわらず、実際に行使している人はほぼいないですね。

 いないですね。どなたも悪意があってそうしているわけではなく、長年やってきたことがみんなのためと思い込んでいるんですよ。特に公務員の典型は、これまでやってきたことは間違っていないから続けるという前例主義、そして、お上は賢くて正しいはずだというお上意識。そこに自分のまちだけ違うことはできないという横並び主義がしみ込んで、完全に凝り固まっている。

それに対して異論を言うと、寄ってたかってつぶされる。特殊なカルト団体の中に一人入っているようなものです。だからせっかく市民派の市長が当選しても、何もしないまま1期4年が終わって、4年後に結局は別の候補を立てられて負けていく。そんなケースばかりなので、もったいないなと思います。

構成・文=宮内千和子 撮影=野辺竜馬(泉氏)坂東望未(安冨氏)

#5「子どもを守る政治が大人を豊かにする」泉房穂元明石市長がまだ日本を諦めていない理由 泉房穂×安冨歩 に続く

日本が滅びる前に 明石モデルがひらく国家の未来
泉 房穂 
子どもを守る政治「明石モデル」をまねる自治体が増える一方、それらが市民に響かない本当の理由 泉房穂×安冨歩_6
2023年9月15日発売
1,100円(税込)
208ページ
ISBN:978-4-08-721279-2
大増税、物価高、公共事業依存、超少子高齢化の放置…
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泉流ケンカ政治学のエッセンス!

◆内容紹介◆
3期12年にわたり兵庫県明石市長をつとめた著者。「所得制限なしの5つの無料化」など子育て施策の充実を図った結果、明石市は10年連続の人口増、7年連続の地価上昇、8年連続の税収増などを実現した。しかし、日本全体を見渡せばこの間、出生率も人口も減り続け、「失われた30年」といわれる経済事情を背景に賃金も生活水準も上がらず、物価高、大増税の中、疲弊ムードが漂っている。なぜこうなってしまったのか? 
著者が直言する閉塞打破に必要なこと、日本再生の道とは? 市民にやさしい社会を実現するための泉流ケンカ政治学、そのエッセンスが詰まった希望の一冊。
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