人気の高かった古尾谷雅人の回
その魅力、数奇な縁、そして後悔
姫野 この連載は読んでくださる人が多くて、連載中、メッセージを随分いただきました。その中でも、皆さんの視聴率というか、印象強い度率が高いのが、古尾谷(雅人)さんの回でした。古尾谷さんへの私の思い入れとか親愛の情は本に書いた通りなのですが、その古尾谷さんが、まさかピンポイントで連載の絵をお願いしたもんでんさんの作品に出演していたとは……数奇な縁を感じました。
もんでん 『太陽と雪のかけら』のドラマに出演されていて、私も一度、撮影現場にお邪魔したんです。ご挨拶はできなかったんですが、「あ、古尾谷雅人だ」と思ったのは覚えています。姫野さんが書かれている通り、すっごく背が高くて、でもやっぱり、背中が丸くて。
姫野 あの人、逆さばを読んでいたんじゃないかと言われているんです。仕事が来なくなるから、身長を、実際より少し低く言っていたと。本当かどうかはわからないんですが、そういうちょっと情けないところ、鬱積が魅力です。
もんでん いろいろとコンプレックスがあったのかなと感じますね。今回、ドラマのDVDを見直して、印象的なシーンを描きました。ただ、古尾谷さんといえば『北の国から』の「その万札は受け取れない」。あのシーンはあまりにも有名だから、そこも入れました。
姫野 亡くなる10年前くらいに、銀座で古尾谷さんを見かけたんですけど、声をかけられなかったんです。一緒にいた人へのつまらない見栄のために声をかけられなかった自分もふがいないし、一緒にいた人のことも恨んでいます(笑)。
―― この本は「映画」を読む楽しさもあります。姫野さんの守備範囲は広くて、最近の映画も取り上げられていますが、何といっても昭和の名作が見たくなる。
姫野 昔の映画に多く言及しているのは、顔の話なので、亡くなった人のほうが書きやすかったことと、やっぱり映画産業が華やかなりし頃に傑作がたくさんあったこと。それから、配信が広がったことで、昔の映画の面白さに気づいてくれる若い人が最近は少なからずいるんです。この三つが重なって、そうなりました。この本を読んで、昔の映画を見てみようかな、と思ってもらえたらうれしいです。
もんでん 私も、絵を描くにあたって、配信でずいぶん見て楽しかったですね。
姫野 単行本では、連載のときの絵を載せないことが多いんですが、今回は全部載せてもらいました。絶対あったほうがいいと思ったし、もんでんさんの絵に便乗して、売りたいと思って。
もんでん いえいえ。でもうれしいです。たくさんの人に読んでいただきたいと私も思っています。