等松教授の告発を契機として対応すべき理由

ただ、「軍隊」はふつうの団体とはちょっと違う、というのが国際法の常識です。警察や海保が束になってもかなわないほどの強力な実力を持った組織である「軍隊」が特定の政治思想や宗教に傾き、クーデターなどを起こせば、国が滅んでしまいかねません。だから、「軍隊」ほど政治や宗教などから距離を置き、常に中立を求められる組織はないのです。

【防衛大告発文に石破元防衛大臣はなにを思う?】「国防を真剣に考え、改善策を口にすると、部内から疎んじられることがある。それが防衛省の一面です」_3

「軍は国家に隷属し、警察は政府に隷属する」という言葉があるように、軍が仕えるべきは国家そのものであって、特定の政治勢力ではありません。このような中立の原則に照らせば、国際法上は「軍隊」として認められている自衛隊の教育を担う機関において、特定の思想的傾向を持つ人物を招き、学生たちの前で講演や祝辞をさせることは、一般論としてふさわしいものではないと思います。

ただ、私が心配するまでもなく、浜田靖一防衛大臣や人事教育局、さらには防衛大の久保文明学校長など、防衛省としても今次の問題については迅速な対応をすでに取っていると伺っています。私としてはその対応ぶりを信頼し、事態の推移を見守っています。

告発を契機として、なぜ、対応が求められるのか? 

それは自衛隊がわが国最強の実力組織として、日本国の独立を守る存在だからです。国の独立とは国家主権そのもの、つまり領土、国民、統治システムです。国家の独立が侵されると、言論の自由や表現の自由といった国民一人ひとりの基本的人権も保障できなくなってしまいます。

「軍隊」は外部勢力に国家主権が侵害されようとしている時、自らの危険を顧みることなく、この侵害を排除するための実力組織であり、国際法上は我が国の自衛隊も「軍隊」にあたります。つまり、基本的人権を守るための最後の砦であり、国民の負託に応える実力組織なのです。

防衛大はその自衛隊の幹部を養成するところですから、そこで不祥事が多発するようでは自衛隊の機能が阻害され、国の独立が守れないということにつながりかねません。だからこそ、些細な欠陥でも迅速に改善されないといけないし、不断の改善が求められるのです。

しかし、我が国にはその前提が欠けたままという大きな問題があります。日本国憲法9条2項は「陸空海軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めており、そのため、自衛隊はここでいう「戦力」にはあたらない、すなわち「軍隊」ではない、という解釈をずっと続けてきました。

では何なのかと言えば、それは「自衛のために必要最小限の実力組織」である、としているのです。私がここまで「国際法上は『軍隊』にあたる」と言ってきたのは、裏を返せば国内法上は「軍隊」とは認めていないからです。我が国の独立と主権を守るための組織をこんな不明瞭な法的地位に置いたままにするまやかしは、もうやめるべきです。