プレーだけではない隠れたイニエスタの功績
誤解を恐れずに言うならば、彼ほどの名声を得た選手ならば、のちに引退がよぎるほどのリスクを選択する必要はなかったはずだ。仮に水原水星戦でピッチに立たなくても、彼のキャリアは何ら傷つかなかったことだろう。
ただ、名声や築いてきたキャリアに関係なく一人のプロサッカー選手として、「ピッチに立ってプレーで自分を示すことがアンドレス・イニエスタだ」という信念がそれを許さなかった。
そんな彼だからこそ、今回のヴィッセル退団にあたり、プレーし続けることへの情熱を優先したという決断にもうなづける。
「僕はずっとヴィッセルで引退する姿を想像してきました。しかし時に物事は願望通りにはいかないものです。まだまだピッチで戦い続けたいという思いが自分にはあります。この数か月間も激しいトレーニングを重ね、試合を戦い、チームに貢献するための準備をしてきました。
しかし、それぞれの歩む道が分かれ始め、監督の優先順位も違うところにあると感じ始めました。その現実をリスペクトを持って受け入れながらも、自分がプレーし続けることに抱いている情熱を掛け合わせて考え、ここを去るのがベストだと思いました」
もちろん、彼が在籍したこの5年間におけるJリーグ、日本サッカー界の盛り上がり、ヴィッセルへの貢献は改めて説明するまでもない。彼の加入によって世界中にJリーグ、ヴィッセルの名が知られ、近年、多くのヨーロッパの選手がJクラブに興味を抱くようになったことも、世界的なビッグクラブとのビッグマッチが日本で開催される機会が増えたのも『イニエスタがプレーする国、リーグ』だということが、少なからず影響しているはずだ。