サッカー人生で最も長い離脱、それでもピッチに立ちたかった理由

また、イニエスタへの取材を続ける中で印象的だったのは、AFCチャンピオンズリーグ2020(ACL)の戦いだ。前年度、クラブ史上初めてのタイトル、天皇杯制覇に導いたキャプテンはこの年、序盤から抜群のコンディションでチームを牽引。ACLでもハイパフォーマンスを繰り広げた。

写真/Getty Images
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結果的に『アジアナンバー1クラブ』への挑戦はベスト4で潰えたが、彼が示したタイトルへの執念には凄みさえ感じたものだ。ケガを負いながらも準々決勝・水原三星戦で113分からピッチに立ったこともさることながら、PK戦で最初のキッカーを務めたことにも驚かされた。

「ヴィッセルの一員になったときから、自分がこのチームで持つ『重さ』を感じてきました。キャプテンという責任を負うだけではなく、ただの1選手であってはいけないという覚悟もあり、それをアジアタイトルで示さなければいけないと考えていました。
チームを助けたいという一心でPK戦では志願してキッカーに立ちましたが、結果的にあの一本によって、サッカー人生で最も長い離脱を余儀なくされるケガになったと考えても、今もその決断が正しかったのかはわかりません。
ですが、プロのアスリートは時に自分の存在がチームに与える影響を考えて決断しなければいけない瞬間が必ずあります。だからこそ、後悔はしていません。唯一、最後までピッチに立ってチームをサポートしたかったという悔しさが残りました」

その後、彼は右大腿直筋近位部断裂の手術に踏み切ったが、そこに至る過程では「引退も考えた」とも明かしていた。

「36歳という年齢で大ケガを負ったことで、正直いろんなことを考えました。特に手術に踏み切るまでは僕自身のメンタリティ、サッカーへの思いを試されているような時間を過ごしました。ですが、最終的には2020年に得た、これまでで一番いいパフォーマンスを維持してシーズンを進められたという手応えにも背中を押され、ヴィッセルのためにできるだけ長い時間、プレーしようと手術を決断しました」