40日間かけて100人に取材して創り上げた脚本

──『フェンス』を観ていると、現地の人が実際に発しそうなセリフや、体験していそうなシーンがそっくりそのまま描写されているように感じます。脚本について、高江洲さんが助言されることも多かったのではないでしょうか。

いえ、僕は脚本には口出ししていません。元記者の北野さんが沖縄で築き上げたネットワークをフルに駆使したり、僕も自分の地元の友人を紹介したりして、野木さんが40日間かけて約100人に朝から晩まで取材して創り上げた台本です。


──すべての登場人物に、必然性を感じます。とくに米兵である黒人とのブラックミックスでありながら、日本語しか話せない大嶺桜(宮本エリアナ)を主役に配置するのは巧みだなと思わされました。そうした配役の上手さによって、沖縄にある問題の複雑さを立体的に見せられていると感じます。

ブラックミックスの桜も、NCIS(※3)の人も、みんな特定のモデルがいるわけではありません。ただ、ストーリーを練っていく中で、野木さんが自然と考えついたものです。おっしゃる通り、白か黒かではない、沖縄にある現状を見せるのに、必要な役どころを上手く野木さんに編み出してもらったと感じています。

「沖縄の問題を伝えるには“ストーリー”というフォーマットが最適なんです」沖縄出身のプロデューサーが米軍基地を巡る連続ドラマに込めた想い_3
ブラックミックスの大嶺桜役を演じる宮本エリアナ。自身も米軍基地のある長崎県佐世保出身

本土からきた基地反対運動をしているダイビングショップ店員のキャラなんかも、野木さんが考えました。本当に沖縄にいそうな人ばかりですよね。

実は最初、北野さんは沖縄県警にいる男性と女性のバディーによる警察もののドラマを考えていたそうです。沖縄で起きた性暴力事件を縦軸として、その他の諸問題解決に挑む形で展開していくような、1話完結のドラマ形式です。

ただ野木さんが「性暴力事件を扱うなら、女性二人のバディーものの方がいい」とおっしゃって、今の形の原型が生まれました。沖縄に多いアメラジアン(※4)の女性を主役にする方向性になり、大嶺桜というキャラクターが誕生したと伺いました。

余談ですが、桜を演じてくれた宮本エリアナさんのお父さんも長崎の佐世保にある米軍基地に所属していたそうで、改めてご縁を感じましたね。

(※3)NCIS……アメリカ合衆国海軍省傘下の法執行機関で、米海軍と海兵隊に関連する重罪級の犯罪を捜査する文民捜査組織

(※4)アメラジアン……アメリカ人軍人の父とアジア人の母の間に生まれた子どものこと