#2 早大卒のエリート、元受刑者、元キックボクシング王者は路上生活者にまで転落
薬物依存症者の9割以上が中卒か高卒、
一方でギャンブル依存症者は…
一般社団法人グレイス・ロードは、ギャンブル依存症を専門とした依存症の回復施設。2015年に山梨県で誕生し、2019年には東京センターも設立されている。創設者の佐々木広さんは薬物・アルコール依存症の回復支援施設である山梨ダルクの代表理事も務める人物で、自身も過去に薬物依存症に陥った経験を持つ。
佐々木さんは、元々はギャンブル依存症回復施設の運営に携わるつもりはなかったという。
「ギャンブル依存症者の家族の人たちとギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子さんから、山梨ダルクでギャンブル依存症者を受け入れてもらえないかと打診されたことがギャンブル依存症に関わり始めたきっかけです。それで、2014年から山梨ダルクでギャンブル依存症者の受け入れを開始したところ、予想以上に入所希望者が集まりました。こんなに多くの人が助けを求めているのかと驚くと同時に、少し困ってしまうぐらいでしたね」(佐々木さん、以下同)
当初は、山梨ダルクで薬物依存症者とギャンブル依存症者が一緒に治療プログラムを受けていたが、半年も経たないうちに両者を一緒に治療するのは効率的ではないと気付いた。その理由は、それぞれの依存症者のバックグラウンドの違いが大きいためだ。
薬物依存症者は、育った家庭に家族機能の問題が見られる傾向にあり、若年層の頃から問題行動を起こしていた人物が多い。対するギャンブル依存症者は、正常な家族機能を持った家庭で育った人がほとんどだという。
「依存症は生育歴が大きく影響しています。これまで私が見てきた薬物依存症者は、親がいないか、いたとしても見捨てられている人が多くいました。大卒者は一割未満、高校卒業している人も半分に満たないくらいです。元暴走族や暴力団の構成員であった経歴を持つ人も決して珍しくありません。
一方、ギャンブル依存症者はごくごく一般的な家族で育ち、ほぼ9割が高校を卒業し、その内の半分以上は大学を出ています。施設で治療プログラムとして実施している集団セラピーでは他者の話に共感することが重要ですが、この両者が参加するセラピーでは、薬物依存症者はギャンブル依存症者を羨むし、ギャンブル依存症者は薬物依存症者を怖がるし、全然共感が生まれませんでした」