私の漫画を読んでくれていた時期があった、というだけでうれしい

——2023年9月20日から「君に届け展」が開催されますね。

コンセプトも素敵で、すごくこだわって作っていただいているので楽しみです。よかったら読者の方も一緒に楽しんでもらえるとうれしいなと思います。

——(担当編集)まだ詳細は秘密ですが、会場でのお楽しみもあるかもしれません。

…まだ取り組んでいる最中です(笑)。

——椎名先生も漫画家さんの展覧会に行ったりすることはありますか?

あ! このカップ見えますか?(※リモート取材のため、モニター越しにマグカップを見せる)くらもちふさこ先生といくえみ綾先生の二人展に行ったときに買ったものなんですが、めちゃくちゃ感動して帰ってきました。

——どんなふうにご覧になりましたか?

どの時代の絵も素敵で。「ああ、この時のこの画面の浮遊感がすごく好きだったな」とか「この空白が素敵だよな」と感じましたし、中高生時代に読んでいたものも多いので、当時の感覚がよみがえるというか、そのときの自分と一緒に見ているような感じがしました。

——『君に届け』の読者の方たちも、今回の展覧会で同じように思うのではないでしょうか。

そう思ってくださったら、本当にありがたいです。ありがたいですし…おかしな話ですけど、その方の気持ちがわかる、というか。なんかこう、感覚を共有できる気がします。

——以前も読者のことを「どこかの時代で一瞬でも一緒の時を過ごせた人」「同志のような存在」だとおっしゃっていましたね。今、椎名先生にとって読者の方たちはどんな存在ですか?

今も同じように思っています。何かしら共通の感覚とか、似通った思い出を持っていたりするから、きっと私の漫画を読んでくださるのだと思うんです。

こちら側からのものだけではなくて、読んでくださる方が持っているものと合わさらないと「好きな漫画」にはならないですよね。お互い持ち寄るものなのかな、と思います。

——一方的なものではないと思えるのは読者にとってもうれしいことですね。これまで受け取ったお手紙など、読者の反応で印象的なものはありますか?

ちょうど最近、思い出していたものがあって。『君に届け』の連載が始まった頃、小学生の女の子からいただいたお手紙に「もし周りに貞子みたいな子がいたら、声をかけてみようと思います」と書いてあったんですよ。

「『君に届け』を読んでそういう気持ちになってくれたんだ」といううれしさもあるし、私も自分の小学生時代のことを思い出す感じもあって。そんなに周りの人と喋るわけではない子に話しかけてみたら、たくさん喋ってくれて「なんかすごくうれしい」と思った記憶があるんですよ。前に出るタイプじゃなくても実は明るい子だったりするし、喋ってみないとどういう子なのかってわからないですよね。そういうことを、思い出させてくれました。

——椎名先生も読者の手紙に自分の経験を重ねたりされるのですね。今またその女の子が『君に届け』を読み返したら、違うことを感じるかもしれませんし、本当に双方向なのですね。

なんというか…もし最後まで読んでくださらなかったとしても、それはそれでいいと思っていて。その人に、私の漫画を読んでくれていた時期があった、というだけでうれしいなと思います。

【漫画あり】「君に届け展 “すき”のちから』が9月より開催決定! 漫画家・椎名軽穂が振り返る『君に届け』へ込めた想い「爽子はこれまで描いたことがないスーパーヒロインでした」_4
「君に届け展 “すき”のちから」作者コメント
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