くるみの深いところにあるものが表に出て来た

——番外編では爽子の恋のライバル「くるみちゃん」が主人公でした。連載を振り返ってみていかがですか?

思ったより長くかかっちゃったな、と(笑)。もともと1回の読み切りのつもりだったんです。

——なぜ長くかかったのだと思われますか?

くるみの相手が『君に届け』の前に描いていた漫画のキャラクター(『CRAZY FOR YOU』の栄治)なので、すでにバックグラウンドがあったことも原因の1つだと思いますし、くるみの深いところにあるものが描いているうちに表に出て来た、というのもありますね。「これを解決しなくては」と思っていたら、全3巻になってしまいました。

——栄治に関しては過去の恋が描かれたりしましたが、くるみの場合はどういうものが「出て来た」のでしょう。

くるみは、風早への思いはそこそこ消化できていたと思うんですが、自分が爽子にしてしまったこと、自分の嫌な部分みたいなものは抱え続けていたんだろうなと。

——くるみは、風早を爽子に取られたくなくて、悪い噂を流したり、爽子に近づいてけん制したりと意地悪な行動をとった過去がありました。

本編を描いているときにも感じていたことではあったんですが、番外編で同じ大学に入って、爽子と長い時間一緒にいるようになったことで、「この人にああいうことをした」という後悔はより強くなるというか。一緒にいることで、ほどかれていった部分もあったと思うんですけれど。

——そういう2人が友情を育んでいって、「だいすき」と口に出したのがとてもよかったです。友だち同士でなかなか言えない言葉のように思います。

照れますよね。意外にそこがくるみと爽子のゴールになったんだなと思いました。2人ともあまり笑わない主人公だったので、最後には笑えるようになって良かったなと。

【漫画あり】「君に届け展 “すき”のちから』が9月より開催決定! 漫画家・椎名軽穂が振り返る『君に届け』へ込めた想い「爽子はこれまで描いたことがないスーパーヒロインでした」_2
お互いに「だいすき」だと伝えあう2人

——完結巻のおまけ漫画で「くるみのような子を主人公に描けたことも楽しかったです」と書かれていたのですが、どういう子だと思っていらしたのですか。

簡単に言うと「ヒール」みたいなことなんですが…今までは、主人公に悪いことをする子を持ってきたりはしなかったんですよね。

短編をたくさん描いてきたこともあって、好かれる主人公とか、読者も気持ちがわかるような主人公を目指して描いていた気がするんです。

くるみは、読者に嫌われるんじゃないかと思って、描くのが怖いタイプでした。

——たしかに、恋に横やりを入れる嫌な子で終わるようなパターンもありますが、くるみからは正直さや純粋さを強く感じました。

主人公っぽい主人公にしようと思って描くのではなくて、くるみだから出てくる言動を描かないと意味がないと思っていたので、「あんな感じ」になりました。

——本人も気づいてないかわいいところがたくさん出てきて、爽子に指摘されていましたね。

欠点が嫌われるかというと、また違ったりしますよね。誰かの意地悪なところを好きだなと思うこともありますから。

【漫画あり】「君に届け展 “すき”のちから』が9月より開催決定! 漫画家・椎名軽穂が振り返る『君に届け』へ込めた想い「爽子はこれまで描いたことがないスーパーヒロインでした」_3
爽子に思ってもみなかったかわいさを指摘されるくるみ