人間の仄暗い表情を描いていきたい
――それは楽しみです! では、表現の自由を題材にした『有害都市』についておうかがいします。連載スタートは9年前で、その頃と今とではSNS等で作品を発表しやすくなった一方で、昔は大丈夫だったのに今はNGな表現もあります。現状に対して思うことはありますか?
たしかに、時代に合わせてマンガの描き方も変わってきています。「この描き方はよくないな」と考えて自粛することもあって、自由でありたいと思いつつ時代の流れに逆らいきれない自分がいますね。
この件で一番残念に思うのは、当時は名作とされた過去の作品が、今の価値観に照らし合わせてものすごくダメなもののように否定されてしまうこと。
例えば、僕が中学生のとき一番好きだった映画『スタンド・バイ・ミー』には、子供が煙草を吸うシーンがあるんですね。
――子どもがマネして煙草を吸ったら困るからあの映画をかけるな!みたいな意見って、子どもを信用していなさすぎな気がします。
いい青春映画には、大人が顔をしかめるような描写もあるじゃないですか。それを闇雲に「時代の流れだから」と規制するのは反対ですね。作品に罪はないというスタンスでいたい。
――『有害都市』が生まれた背景には、バイオホラー『マンホール』が長崎県の有害図書類に指定された件があります。ゴア表現に関する規制についてはどう思われますか? 個人的には血しぶきが飛び散るシーンは以前より見かける機会が増えたように思うのですが。
そうですね……。僕が年をとったせいか、直接的な表現、過激なものを描きたいという意欲がそんなになくなってきているんです。『ノイズ【noise】』の冒頭で小御坂睦雄が、女性を見つけてニタッと笑うのですが、いま描きたいのは、そういう表情に滲む怖さですね。
――あの顔は、人のなかに渦巻くドス黒い感情が漏れ出た瞬間の表情でした。
はい。規制に縮こまってそっちにシフトした訳ではなく、僕の興味が自然とそっちに移っていった感じです。大事件を起こしたニュースの中の人より、街でめちゃくちゃ怒鳴っている人とか、身近にいる話の通じない人の方が怖いじゃないですか。そういう部分を作品に出せたらと思っています。