愛する相手をどこまでサポートするか。映画『エゴイスト』を通して考える、カップル間の愛情のバランス。

この愛情はエゴなのか、欺瞞なのか。 映画『エゴイスト』松永大司監督×宮沢氷魚さんインタビュー_1
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昨年の東京国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされた松永大司監督の『エゴイスト』。ファッションや、恋愛相談、また羽生結弦選手を通してのフィギアスケートという競技の奥深さを分析した文章など、コラムニスト、エッセイスト、編集者として活躍した故高山真さんが、発行当時、浅田マコト名義で発表した同名の自伝的小説を映画化したものです。

学生時代、ゲイへの嫌悪感を露にした同級生たちへの復讐のように、故郷の田舎町に帰郷するときは、武装するかのようにブランド品に身を固め、東京で成功した編集者としての顔をアピールする主人公、浩輔(鈴木亮平)。華やかなシングルライフを送っていた彼は、パーソナルトレイナーとして知り合った龍太(宮沢氷魚)に心惹かれ、交際するようになりますが、龍太は病気がちな母を抱え、複数の職を抱える身。龍太を愛すれば愛するほど、金銭的なサポートを惜しみなくしたくなる、でも、これは果たして恋愛と言えるのか、自分を満たすエゴイスティックな行為ではないのか、そういった浩輔の心の葛藤を象徴したのがタイトルの『エゴイスト』となります。

この愛情はエゴなのか、欺瞞なのか。 映画『エゴイスト』松永大司監督×宮沢氷魚さんインタビュー_2
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今作は日本映画としては画期的に、LGBTQ+の言葉、性的マイノリティの認識等をスタッフ、俳優で正しく共有するためLGBTQ+インクルーシブ・ディレクターによる監修を入れ、セックスシーンを含む「インティマシーシーン」には、インティマシーシーン・コレオグラファーが所作を監修したことでも注目されています。LEEでは「この組み合わせは初です!誰も僕に、氷魚と語らせてくれなかったから嬉しい」と語る松永監督と、龍太役の宮沢氷魚さんとの対談で話を伺いました。

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(左)俳優・宮沢氷魚(Hio Miyazawa)
1994年生まれ。サンフランシスコ出身。2017年にテレビドラマ『コウノドリ』第2シリーズで俳優デビュー。その後、ドラマ『偽装不倫』(19)、NHK連続テレビ小説『エール』(20)、映画『グッバイ·クルエル·ワールド』(22)など多くの作品に出演。初主演映画『his』(20)では数々の新人賞を受賞、映画『騙し絵の牙』(21)にて、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。舞台に「BOAT」「豊饒の海」「CITY」「ピサロ」など。また、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(22)への出演も話題を呼んだ。明智光秀を演じた大友啓史監督作『THE LEGEND&BUTTERFLY』が公開中。2023年6月には舞台『パラサイト』に出演予定。

(右)監督・松永大司 (Daishi Matsunaga)
1974年生まれ。友人であったトランスジェンダーの現代アーティスト・ピュ~ぴるを8年間追ったドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』(2011)で監督デビュー。同作は第40回ロッテルダム国際映画祭、第11回全州国際映画祭、パリ映画祭など数々の映画祭から正式招待され絶賛された。2015年には初の長編劇映画作品『トイレのピエタ』(出演:野田洋次郎、杉咲花)が公開。本作にて、第20回新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭森田芳光メモリアル新人監督賞などを受賞。また第16回全州映画祭インターナショナル・コンペティション部門、第45回ロッテルダム国際映画祭Voices部門に正式出品された。2017年には、15年振りに復活を果たしたTHE YELLOW MONKEYの1年間の活動を追ったドキュメンタリー映画『オトトキ』が公開。同作品は、第22回釜山国際映画祭ワイド・アングル部門に正式出品。2018年、国際交流基金×東京国際映画祭による「アジア三面鏡」企画第二弾に、アジア気鋭の監督の一人として参加、『碧朱』が東京国際映画祭にて上映。その後、村上春樹原作『ハナレイ・ベイ』(出演:吉田羊、佐野玲於、村上虹郎)、『Pure Japanese』(出演:ディーン・フジオカ、蒔田彩珠)と監督作品が公開されている。

心の距離と肉体の距離を近づけるためにとった、映画『エゴイスト』のためのリハーサルとカメラワーク。

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──宮沢さんに伺いますが、松永監督の演出は粘る方ですか?

宮沢氷魚(以下、宮沢)「うん、粘りますね。僕はこれまで舞台に何度か出演し、本番までに時間を重ねての芝居稽古というのは経験があったんですけど、映画で撮影に入る前に2週間ほど、徹底的にリハーサルを重ねたのはこの『エゴイスト』が初めてでした。

そこで浩輔役の鈴木亮平さんとじっくり向き合うことで、本番のときにはもう、龍太という人と自分がすっかり同化した状態になっていたと思います。だから、当時のことを思い出そうとしても、なかなか思い出せないんですよね」

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松永大司(以下、松永)「元々僕はドキュメンタリーからキャリアが始まっています。そしてドキュメンタリーの撮影では自分でカメラを回します。で、『エゴイスト』に関しては、デビュー作のドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』のときとほぼ同じ距離から、俳優たちを映しました。離れた距離からカメラレンズでズームで撮るのではなく、自分の体を俳優たちに近づけて、撮るというスタイルですね。それはやっぱり、被写体と僕との距離が映像に現れ出るから。

心の距離が近くないのに、レンズで無理やり寄ると、どうしても距離のある画(え)しか撮れないんです。無理やり相手の懐に入ろうとすると、相手は拒絶するじゃないですか。画が近いけど、被写体が撮影者よりも遠いということが起こらないように、フィジカルの距離と心の距離を近づけるということもあって、今回、撮影前のリハーサルでもカメラで撮影しました。

役者がカメラを拒絶せず、普段と近い姿や表情を撮れていれば、 見てる人は自然とその関係性に入り込める。そのアプローチはずっとやりたくて、そしてやらせてもらえて、とてもよかったです」

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──だからか、カメラと表情の距離も本当に近いですよね。ここまで顔に出てくる細かな感情の機微を至近距離から見られるというのはすごいと思いました。カメラの接写を気にしない鈴木さん、宮沢さんたち俳優陣の力量もすごいと思うのですが。

宮沢「実は僕は、近くにカメラがあったことすら覚えてない。それは先ほど言ったように、リハーサルの時点で、カメラを構えてくださっていて、カメラに慣れるというより、カメラマンがすぐ近くにいることに対して、体や気持ちに拒否反応が起きないように、そこにいることが自然という風になっていたから。だから、お芝居をしている中で、どこにカメラがあったとか、どういう撮り方をしていたのか、正直覚えていなくて。

完成した作品を見て、初めて、『あ、こんな寄りの表情を撮ってもらっていたんだ』とか、『こういう角度から僕たち2人を撮っていたんだ』って、 自分も観客の方たちとほぼ同じ驚きで見たと思います」

松永「映画はやはり総合芸術で、 カメラマンもそうだし、監督と役者とシナリオとクルー全体の雰囲気が整っていないと、ダメだと思います。みんなの能力が合わさって、一緒のところを目指さないと」

これまであったLGBTQ+映画の系譜に今、最も勢いのある鈴木亮平と宮沢氷魚が出ることに意義がある。(松永)

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──『エゴイスト』はゲイカップルの出会いから別れまでを描いた恋愛映画ですが、メジャーの大手映画会社の配給でいうと、李相日監督の『怒り』の妻夫木聡さんと綾野剛さんのパートや、内野聖陽さん、西島秀俊さんの『きのう何食べた?』など、増えてはいるけれど、まだまだ多いとは言えない。

今回はLGBTQ+インクルーシブ・ディレクターによる監修を入れるなど、また一歩、繊細な眼差しで制作されて、フューズを変えたと思ってみているのですが。


宮沢「僕は浩輔役が鈴木亮平さんだったからできたというのが大きいです」

松永「『エゴイスト』以前にも、それこそ氷魚が出演した今泉力哉監督の『his』がありますし、遡れば、橋口亮輔監督のデビュー作の『二十歳の微熱』を筆頭に、『HUSH!』など、いろいろありますよ。ただ、おっしゃったことを受けて、近年ではというと、鈴木亮平と宮沢氷魚という、2020年代の今、勢いのある2人が出るという意味では、すごい意義があると思っています。

亮平のすごさは、ゲイを演じるという意味にとどまらず、多分、どの役に対してもとにかく素直に向き合っていくっていうこととなんだろうと思います。亮平がいて、氷魚がこの映画にいることは、バランスがすごい良かったと思っているんです。どちらか単独では考えられないというか。

LGBTQ+というテーマもあって、どう演じるかの努力も含めて、亮平が浩輔を演じたこと。そこに氷魚が加わったこと、そしてお母さん役として阿川佐和子さんもいた。この3人が揃ったことで、それぞれの力を出し切れたと思います」

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宮沢「なんですかね、亮平さんだからこそ生まれたものがたくさんあって、龍太の表情1つにしても 全部引き出してくれたと思います。で、多分その逆ももちろんあると思うんです。だから、僕、亮平さん以外の浩輔はもう想像ができないんですよね。他の人だったらどうだったんだろうっていう想像すらもできないぐらい」