原作者の高山真さんと僕は似ている
──『エゴイスト』はエッセイスト・高山真さんの自伝的小説の映画化です。雑誌編集者として活躍しながら、私生活ではパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と愛を深めていく浩輔を演じられましたが、まず出演依頼が来たときのことについて。出演を決めた理由から教えてください。
理由はふたつあり、ひとつは原作小説『エゴイスト』に惹かれたことです。この小説は“愛とエゴ”“善と偽善”について描かれており、僕が興味を抱いているテーマだったんです。エンターテインメントして描くのはとても難しいテーマですが、高山さんはそれをとても丁寧に表現されていることに感銘を受けました。
もうひとつは原作者の高山真さんです。自分自身を客観的に観察しているところや、それを言語化して言葉で勝負しているところなど、高山さんと僕は似ていると感じました。地方出身者で、大学の先輩でもあるなど共通点もあるので、共感できるところも多かったです。
──では、出演を決めるのは早かったんですか?
いえ、なかなかすぐには決められなかったです。僕が浩輔を演じることで、高山さんの描いた世界観を果たして表現できるだろうかと心配でした。浩輔は高山さん自身を投影したキャラクターです。それと、異性愛者視点の同性愛者像になってしまうのではないかという懸念もあって、慎重に考える必要があると思いました。
でも製作側が、LGBTQ+inclusive director(※)のミヤタ廉さんを監修者としてつけてくださったり、浩輔の友人役にゲイの方々をキャスティングしてくれたり。そのほかにも様々な配慮をしていただけたので、それなら自分もみなさんに相談しながらやってみようと思いました。
※性的マイノリティに関するセリフや所作、キャスティングなどを監修
リアルかつ、偏見やステレオタイプを助長しないように
──浩輔という男性をどのように解釈して役作りをしたのでしょうか?
高山さんが執筆した『愛は毒か、毒が愛か』というエッセイがあり、僕はこの本の“毒は“エゴ”に置き換えられると思いました。“愛はエゴか、エゴが愛か”をテーマとして心に置いて演じました。
自伝的小説の映画化とはいえ、フィクションなので高山さんに寄せる必要はないのですが、彼が経験したことが『エゴイスト』という小説の中には内包されています。だからこの映画は高山真さんが生きた証になると思い(※高山さんは2020年没)、高山さんのキャラクターを尊重して丁寧に演じたいという気持ちは強かったです。
──話し方や仕草など、意識したところはありますか?
そこはとても悩みました。高山さんのユニークなキャラクターを生かしたいと思いつつも、ご本人そっくりに演じることだけが正解ではないかも、とは思っていました。この作品のテーマと、映画というものの影響力を考えると、たとえ演じ方がどれだけリアルであったとしても、それが世間の偏見やステレオタイプを助長してしまう可能性もある。そのことは、意識していなければいけないと思いました。
最終的にはご本人についてお聞きした印象を半分ほど取り入れさせていただいたつもりです。あとの半分は、ゲイの方にリアルだと思ってもらえて、かつ、そうでない人にも物語がきちんと届く適切なラインを、LGBTQ+inclusive directorのミヤタさんと話し合いながら、役作りを進めていきました。
──ミヤタさんのようなLGBTQ+inclusive directorが映画作りに深く関わるというのは、日本では珍しいことだと思うのですが、ミヤタさんはどのようなアドバイスをしてくださったのですか?
ミヤタさんは脚本の段階から関わっており、監督とディスカッションを重ねたり、僕たち俳優たちと話し合ったりして、浩輔と龍太の関係、彼の友人関係、セクシュアリティについて表現方法に偏りはないか、誤解を招くようなことはないか細かくチェックしていました。
おそらく今後、ミヤタさんのような監修スタッフは増えていくのではないかと思います。僕も含めて、この業界はこれまで、LGBTQだけでなく人種や障害など、マイノリティの描き方に対して無頓着だった部分が否めませんので、とても必要性を感じています。実際、この映画の撮影の間、ミヤタさんはとても頼りになる存在で、僕らは安心して撮影に臨めましたから。