では、大阪や名古屋のワイドショーにはどんな弱点があるのでしょうか?
まず第一に、「多くの素材を東京に借りなければならない」のが弱点です。ワイドショーが使う素材は大部分がニュース番組からの借り物です。ニュースが発生する場所は極端に東京に集中していますから、多くの映像と原稿を東京から借りて制作することになるわけです。いまやオンラインで映像も原稿も共有できますから、そういう意味ではさほど問題はありませんが、なにかわからないことがあったりしたときに、問い合わせをするのが難しいのが大きなネックです。

東京で制作するワイドショーなら、同じ建物の中にニュースセンターがあるので、直接出向いて取材記者に質問することも容易です。ですが、大阪や名古屋だとそうはいきません。電話をかけるくらいしか質問する方法はないですし、そもそも「別の会社の人に電話して質問する」のは、相手が忙しいこともわかっているからしにくいです。こうした理由で、東京で制作する番組と比べて情報が遅くなってしまいます。

そもそも大阪や名古屋には、分野によってはくわしい記者が誰もいないのも問題です。コロナ禍対策やウクライナの戦争で、いまワイドショーで取り上げるネタのメインは「政治の問題」と「海外情勢」になっています。しかし、国会や各政党を取材する「政治部」と、海外支局を統括し外国のニュースを専門に取材する「外報部」は、東京キー局にしかないのです。ですから、政治ネタや海外ネタの専門家は、ほぼ東京キー局にしかいません。

東京なら人事異動で「政治部や外報部の経験者」がワイドショーにもそれなりの数います。もちろん大阪や名古屋の放送局にも、海外特派員経験のある人は少数ながらいますし、その地方の政治家には日頃から取材をしていますが、どうしても政治や海外のニュースは「東京に比べて弱い」のです。

もちろん、逆に「自民党本部に遠慮せずに大胆な放送ができる」とか、そういう利点もありますから、一概に「地方局が制作したワイドショーが悪い」とは言えません。でも、どのワイドショーを見るか、あるいはその番組で放送している情報の信頼性がどの程度あるか、を判断するにあたっては、こうした事情を念頭に置いておいたほうがいい、ということは言えると思います。

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『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)
鎮目博道 (著)
『ミヤネ屋』『ゴゴスマ』…多くの素材を東京に借りなければならないのに、全国ネットのワイドショーを大阪と名古屋の放送局が作っている本当の理由とは?_1
2023/2/22
‎ 208ページ
ISBN:978-4334953638
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テレビ局に27年間在籍した立場だからわかる内部事情、問題点や外圧を、誰にでもわかりやすく解説していきます。
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