しかしながら、のんびりしている暇はない。悩める当事者は全国にいて、自身が抱える生きづらさの原因を一日でも早く明確にしたいと願っているからだ。

そこで阪本さんが取り組んでいるのが、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の研究公募で採択された、『当事者ニーズに基づいた聴覚情報処理障害診断と支援の手引きの開発』だ。AMEDに採択されたことで、国から研究予算へ補助金を受けられるようになった。

二〇二一年度よりスタートした本研究では、APDの診断基準と、当事者への支援の在り方を明確にすることを狙いとしている。まずは国内での実態を明らかにすべく、二〇二一年の秋からは大阪と首都圏を中心に、およそ五千人の子どもを対象にした大規模調査も行われた。そうして研究・調査を重ね、その結果から導き出せるAPD診断のガイドラインを発表するつもりだ。

もちろん、それはゴール地点ではない。そこでの反応を見ながら調整を重ね、二〇二三年度には集大成となるものを発表したいと計画しているという。

「いま、大阪公立大学医学部附属病院で行っているような検査方法を、すべての耳鼻科で行うのは現実的ではない。だから、もう少し取り入れやすい検査方法を提案し、ひとつでも多くの耳鼻科がAPDを診断できるようにしたいんです。たとえば必須検査とオプション検査にわけて、APDと診断できる最低限の内容は必須検査とする。そしてもっと詳しく調べる場合は、それなりに大きい病院でオプション検査を受けてもらうようにする。そうすると、『あなたはAPDに該当しますね』という最低限の診断が、全国各地の耳鼻科でできるようになります。そのために必要なのが、明確な診断基準なんですよ」

ちなみに、阪本さんが進めている研究には、当事者会も協力をしているという。研究タイトルに「当事者ニーズに基づいた」とある通り、専門家のみで進めていくのではなく、当事者の声に耳を傾け、二人三脚で進めている。それは阪本さんの理想でもある。

「当事者のニーズを踏まえて研究を進めていく。それが非常に重要なことだと考えています。やはり、現実社会で困っている人たちの声を聞かなければ、本当に必要なことにたどり着けません。当事者会のみなさんのおかげで、素晴らしいデータを集めることもできています」