「APD/LiD」という言葉をご存じだろうか。聴力に問題はないのに、特定の状況下だとなぜか人の言葉が聞き取れない障害だ。まだ知名度は低いものの、潜在的な当事者は多いのではないかと推測されている。
そんなAPD/LiDに焦点を当てたルポ『隣の聞き取れないひと』(翔泳社)を上梓した五十嵐大さんに、この書籍を書いた理由や当事者との関わり方について聞いた。
特定の状況下で言葉が聞き取れない「APD/LiD」
——はじめにAPD/LiDの概要について教えてください。また、どんな状況下だと聞き取れなくなるのでしょうか。
APD(Auditory Processing Disorder)は「聴覚情報処理障害」ともいい、聴力に問題はないのに、特定の状況下で人の言葉が聞き取れない障害を指します。海外では「聞き取り困難症」を意味するLiD(Listening Difficulties)という表現が使用されつつあり、そのため日本でも「APD/LiD」と併記することが増えてきました(編注:以降、原稿では「APD」とする)。
どんな状況で言葉が聞き取れなくなるのかは、その人によって異なります。人混みやカフェなど多くの人がいる場が苦手な人もいれば、雨が降る日だと、雨音と人の声とが混ざって聞き取り困難になるという人もいます。
ビジネスシーンでは、電話越しの会話や大勢が参加する会議で言葉が聞き取れなくなるというケースが比較的多い印象です。
——私は五十嵐さんの書籍によってAPDを知ったのですが、APDはいつ頃から知られるようになったのですか。
APDは2018年にNHKのテレビ番組で放送されてから、少しずつ知名度が高まっていきました。「この放送を見て『自分がAPDかも』と思った」と語る当事者もいましたね。
とはいえ、APDは個人差がとても大きく、かつ現在も研究が進められている状態のため、まだ「APDはこういう障害です」と画一的な説明ができません。そのため、すでに認知されている障害に比べて周囲から理解されにくいといえます。
APDの当事者からは「周囲に理解してもらうために毎回説明を強いられるので、疲れてしまいます」という話を何度も聞きました。