映画版への道

この流れはちょっと前にもありました。『宇宙戦艦ヤマト』です。1974年にテレビシリーズとして放映が始まったけど低視聴率で打ち切り。熱狂的なファンの後押しで交響組曲、玩具、テレビを再編集した劇場用映画と展開して、1978年には完全オリジナルの続編映画が製作、社会現象的大ヒットになりました。

となると、発表されてから約1年後に公開される『ガンダム』の劇場版は、テレビの総集編に過ぎないのだろうか? はたまた新作か? 指折り数えても待ちきれない中学生に潤いを与えたのが、朝日ソノラマから発売された小説版であり、キングレコードから次々にリリースされたレコードであり、放送終了から半年後に発売されたバンダイの“ガンプラ”だったのです。

とりわけ原作者であり総監督の富野喜幸(※現・富野由悠季)さんの筆による小説版。今、奥付けを見たら初版が1979年11月とあります。なんと初回放送時…11月といえばホワイトベースは中立地帯のサイド6からソロモンにかけて彷徨っているあたりです。

そこから逆算したとしても、本放送を思いっきり作っている最中に書いていたであろう小説なんですが、これがまた全然テレビと違うんですよ。違うというよりもテレビ版に夢中になっている中学生に、「俺が考えてた本当のガンダムはこんなもんじゃないんだよ!」と冷や水をぶっかけるような内容なんです。

富野監督の狂気に近い本気っぷりは、今でこそ公然の事実として広く世に知れ渡っていますが、何も知らない中学生が正面から浴びると相当のダメージです。だからといって、『ガンダム』が嫌いになるかというとそんな訳もなく、その行間にまだ見ぬ劇場版の片鱗を想像してはニヤニヤしていました。

「あいつは俺だ! アムロ・レイ14歳は、俺そのものなんだよ!」中2の樋口真嗣の選民意識と承認欲求を満たし、創作の道へと(多分)進ませた、アニメ作品の金字塔!【『機動戦士ガンダム』テレビ編】_3
劇場版のオープニングシーン
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高校受験の前日に発売された小説版『ガンダム』の第3弾完結編。田舎街にある一番大きな本屋に入荷したのは、たったの1冊。買っておかないと手に入る可能性はしばらくないから、今買わねば。でも明日は高校入試日。読んだらダメなのについ我慢ができず、読むととんでもない展開。
これで志望校落ちたりしてたら富野さんのせいだったけど、合格したから富野さんのおかげだと言えましょう。というかやっとガンダム劇場版1作目に届いた81年春! 本題の3作目『めぐりあい宇宙(そら)』には遥か遠くまだまだ辿りつかないけど、これは大事な話だからつづく!

『機動戦士ガンダム』
1979年4月~80年1月に放送された、日本サンライズ制作のテレビアニメ。“ジオン公国”を名乗って独立をかかげるスペースコロニーと連邦政府との戦争を背景に、たまたまモビルスーツに乗り込んでしまい特異な戦闘能力を発揮する14歳の少年アムロと仲間たちの成長、ジオンの英雄シャア少佐との闘いを描く群像ドラマ。爆発的なブームを巻き起こし、さまざまにメディア化、商品化、シリーズは多岐にわたり、現在まで脈々と続いている。