“わからない”苦しみは減ってきた

「他にお金を稼ぐ術がないから」東出昌大が耳目を集める “俳優”を手放さない理由_2

──俳優としてのキャリアをスタートさせた当初、東出さんは「お芝居は楽しいものではない」とおっしゃっていたのが印象的でした。今はいかがですか?

昔はわからないことが多すぎて、頭でっかちでしたからね。いつの間にか、世間からの耳目をいっぱい集めていて、「自分はそんなに注目される人物なんだろうか?」と悩むこともありました。

でも今は、純粋に作品に向き合えるようになったし、多分、お芝居というものがちょっとずつわかってきたから、“わからない”苦しみは減ってきた気がします。

監督とすぐに共通認識が取れるようになってきたし、監督が見たいものが、ちょっとずつ表現できるようになってきたかもしれないです。

──主演映画『とべない風船』はもちろん、東出さんはこれまでも、思い悩む役を演じることが多かった気がします。

しんどい芝居をやらせても悪くないぞ、という評価が続いたときに、『草の響き』(2021)『天上の花』(2022)『とべない風船』(2022)という3作が続いたと思うんです。

そういう芝居を求められて呼ばれた現場だったら、最善を尽くすしかない。いただいた仕事を、手を抜かずに臨むだけですね。

例えるならば、フィンをつけて潜る感じ。お芝居を始めた最初の頃は、いろんな準備をしていざ潜るぞって思っても、息が続かず10mくらいしか潜れなくて、苦しくて。

でも最近は、心構えはしつつも、準備はほどほどに。心の平静を保ったまま芝居に臨めるようになった気がします。事前にあたふたしなくなったから楽に潜れるようになったし、1作品ごとに、潜れる深さが増しているというか。

もちろん、今も深く潜ることはしんどいし、息が続かなくなることもあるけれど、限界まで潜りたいなと思っています。

──今のタイミングで『とべない風船』に出会ったこと、そして、そのことで救われたことはありましたか?

この映画の組の方たちはみんな優しくて、その優しさに包まれる日々に幸せを感じました。

最終日に、ものすごい雨降らしのシーンがあったんです。撮影が終わった頃に、衣装部さんとメイク部さんに「大丈夫?」と聞かれて、「大丈夫、大丈夫」って返したんです。そしたら「今後、大丈夫じゃないのに大丈夫と言うのはやめなさい。大変なときは人に頼るの!」と怒られて。

久々に説教食らったなって思いました(笑)。でも、すごく人間らしくて、温かい説教。うれしかったです。