ジョニー・デップにサインをもらうつもりが...

「ロードショー」が帰ってくる⁉ びっくりしながら、でも嬉しかった。
写真がカラフルできれい。それが「ロードショー」誌をはじめて開いたときに感じたこと。気に入った映画で大好きになった俳優がこんなにきれいな写真で見られ、自分の手元に置ける。それが嬉しかった。
外国にも映画誌はいろいろあるけれど、作品紹介、評論、スターのゴシップやニュースなどはそれぞれ分業、一冊にまとまったものを見たことはないし、映像を語るのに写真がないのはなぜ?と驚いたこともあった。外国の映画誌は“カラフル”や“きれい”に対して無頓着だ。

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記念すべきロードショーの創刊号 ©ロードショー創刊号/集英社

そんな、きれいで手元に置けるのが“嬉しい”「ロードショー」のお仕事をすることになって少しした頃、編集部から連絡があった。
「え、私がジョニーを⁉」と、びっくり。
ジョニー・デップにインタビューすることになったのだ。「ロードショー」のお仕事で今もうれしさと楽しさの思い出が残っているのが、このジョニーとのインタビューだった。
色々な方にお会いする機会があっても私の場合は監督や製作者が多く、若いアイドル系スターとの単独インタビューはごくわずか。

うれしさのあまり家を出るときには、絶対にサインをもらうんだと決めていたのに、そんなことはすっかり忘れてしまうほど舞い上がっていた。
ということで今なお後悔が残るのだが、でも担当編集者がカメラマンさんから使わなかった写真をもらってきてくださって、それだけは大切にしまい込んである。担当編集者と仲良くなれたのも「ロードショー」での楽しい思い出のひとつだ。

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渡辺祥子さんの後悔とはうらはらに、「ロードショー」編集部は重ねた取材のうちに、ジョニー・デップからの直筆サインを入手していた!  見よう見まねで書いてくれたカタカナ…「ヅョニー」がいとおしい!

ジョニーが“サイン”したのはあの大作の契約書!

それから少ししてアメリカの映画プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーにインタビューをすることになり、ビジネス最優先の業界人に見える彼が、実は私以上の映画ファンで、その思いが製作する映画に生きていることを知った。
目下10本のTVドラマ・シリーズを製作しているが、いまいちばん気になっているのはこれから撮影に入る新作映画のことだと言っていた。
「でも、大丈夫。ジョニー・デップの出演が決まったんだ。彼がサインしたんだよ」と言った。少し前にインタビューして私がもらいそこねたサイン(この場合、正確には契約というのだろうが…)をジョニーからもらったブラッカイマーは、彼を主演に『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』(03)を製作、シリーズ化される大ヒットになったのだ。

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2003年、ロケ中に談笑するジェリー・ブラッカイマー(左)とジョニー ©AFLO

「ロードショー」と関わったさまざまな出来事を思い出していると、作品やスターの紹介だけでなく、映画の描く内容を媒介にして“新しい流行”や、いままで知らなかった“好き”が生み出せたら、どんなに楽しいだろうという気がしてくる。
つい最近見た『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』のヒロインが着ていた水玉のブラウスの新鮮さを皆に教えてあげたい、なんて思ったりして。

 映画には“流行”や“好き”を生み出す力があるが、新たにはじまる「ロードショー」のウェブレーベルもまた、それができる大きな可能性を秘めている。かつて映画は世界的な流行を生むきっかけを作ってきたが、いま、また新たにそれができたら、と願わずにいられない。“新しい流行”や“好き”がここから生まれますように‼

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『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(2020)
My Salinger Year 上映時間:1時間41分/アメリカ・カナダ合作
監督:フィリップ・ハラルドー
出演:マーガレット・クアリー、シガーニー・ウィーヴァー
サリンジャーを抱える老舗の出版エージェンシーで働き始めたジョアンナ。ファンレターへの返信作業の合間に受けたのは、作家本人からの電話で…。90年代のニューヨークを舞台に、若い女性が自分の人生を見つけていく姿を描く。(2022年5月6日公開/ビターズ・エンド配給)