レア・セドゥの自然な肉付き、現実味のある裸。じっくり見たい大人の官能恋愛映画_2

作品に息吹を与える、現実味のある裸

静かに本を読んで夫を待っていたかと思うと、酒場で踊り出す陽気さもあり、奔放でミステリアスな妻のリジー。計算高く、ときに官能的に夫を誘う彼女の多面性を、レア・セドゥが抑え込んだような熱情を持って演じている。夫といがみ合うシーンでも感情を爆発させて叫ぶようなことはせず、彼を哀れみと軽蔑の眼差しで見つめて「気が済んだ?」というようなトドメのひと言を発するのだ。彼女の方が精神的に断然有利。客観的に観て、キツいぜ、おフランスの女房は、と思いましたね、私は。


同時に、レア・セドゥの内面の複雑さを感じさせる佇まいに惹き込まれた。薄味な顔をしているのに、夫を射るような眼差しは鋭く、笑うとスキっ歯が丸見えになり、大人の女性なのに若い女の子のようなチャーミングさがある。そして、レアは大胆に脱ぐ。

ウェス・アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021)でも絵描きのモデルをするシーンで、思いっきりのフルヌードを見せていたが、その裸が、またなんというか自然の肉付きで現実味のある美しさ。誰とはいわないが、いつまでも若さに固執した人工的な女性美とは全く違って、彼女の裸が作品に生の息吹を与えているのだ。

本作でも官能のシーンは当然重要であるから、夫婦の愛の変遷に従い数シーンある。最も直接的な夫婦のベッドシーンを、ハンガリー人の女性監督イルディーコー・エニュディは引きの構図でとらえていたのが印象的だ。リジーは性的な魅力を持ち合わせている女性だが、その描写を彼女の裸に頼らず、ダンスやちょっとした仕草や彼女の眼差しで表現しているところにも注目。

レア・セドゥの現実味のある裸体の官能性。じっくり見たい大人のラブ・ストーリー_3
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夫婦の心理描写を丁寧に描くためだろうか、ちょっと長く感じた尺ではあった。正直、もう少し整理して時間短縮したらもっとよかった。ともあれ、たまには観たい大人のマジなラブストーリーであった。

『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』(2022) 
原題:A feleségem története 上映時間:1時間49分/ハンガリー、ドイツ、フランス、イタリア
8/12から公開/彩プロ配給
監督/イルディコー・エニュディ 原作/ミラン・フスト
出演/レア・セドゥ ハイス・バナー ルイ・ガレルほか
https://mywife.ayapro.ne.jp/

イラスト・文/石川三千花