〈心ふるえる本〉では綿矢りさ『生のみ生のままで』(上・下)が女性同士の恋愛を描いた傑作。本誌にインタビューが掲載されていますので、そちらを(わたしとしては、強く、強く、強く推します)。
 村山由佳『てのひらの未来』は「おいコー」こと「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズの最新刊。というか1994年に『キスまでの距離』で始まり、2020年の『ありふれた祈り』で完結したこの物語のもう一つのお話です。勝利がオーストラリアでとんでもないことになってしまい、かれんは激しく動揺して……。「おいコー」の登場人物たちに再び会えるこの喜び。
〈ワクワクする本〉は話題作てんこ盛り。
 感心したのは朝井リョウの『発注いただきました!』です。世の中には「タイアップ企画」というものがあります。企業や団体などの広告としてつくられます。お金を出すのは広告主で、いろいろ注文がつきます。作品に商品を登場させてほしいとか、その商品のイメージがよくなるように表現してほしいとか。
発注いただきました!』には、そうしたタイアップ作品を中心に、いろいろ条件を与えられて書いた作品が集められています。発注主は森永製菓やJRA、朝日新聞や資生堂。アサヒビールとサッポロビールもある。
 ただ集めただけじゃありません。発注内容と著者自身の感想も。たとえばJRAの発注内容には「過去のレースから導かれたテーマを、人間ドラマに置き換えた物語の執筆」など要望が並んでいる。これを1000~1200字の小説にするというのだから難問です。完成したのが『その横顔』という作品。著者は競馬の経験も知識もなかったそうです。なお、執筆後、初めて競馬場に連れて行ってもらって、そこで俳優の高橋克典一家を目撃したのだとか。文庫版には単行本未収録作品も入りますので、単行本で読んだという方も必読ですね。
ナポレオン 1 台頭篇』はすごいですよ。作者は西洋史を題材に小説を書かせたらこれ以上の人はいない、という佐藤賢一です。ナポレオン生誕250周年に全3巻で出た本の第1巻が文庫で登場しました。
 第1巻は、コルシカ島の貧乏貴族の次男として生まれたナポレオンが、パリの陸軍士官学校を出て軍人になる。時代はフランス革命のまっただ中。フランス共和国軍の砲兵指揮官として才能を発揮し、革命の大スター、ロベスピエールらとも知り合います。ところがクーデターが起きて……。この本を読んで、わたしはナポレオンについてのイメージが変わりました。「はったりの多いうさんくさい男」だと思っていたのですが、頭もよくて努力家。はじめのほうに彼の猛勉強ぶりが出てきます。
まいんち ゆずマン』は「ゆず」の北川悠仁による4コマ漫画+α。フルーツ幼稚園あまずっぱ組のゆずマン(5歳)の明るく正しい幼児生活を描く。ゆずマンは世界の平和をまもる正義の味方。読む人の心が平和になること間違いなし。作者のロングインタビューや尾田栄一郎・秋本治との対談2本も収録。
「かわいい」は便利なことばです。でも、そもそも「かわいい」とはなにか。益田ミリ『かわいい見聞録』は「かわいい」についてあらためてじっくり考え、身の回りの「かわいい」を再発見するコミック&エッセイです。軽いようでけっこう深い。
 誰もいない学校は怖い。『短編アンソロジー 学校の怪談』は櫛木理宇はじめ6人の作家による短編集。SNS、摂食障害、イジメなど、怪談には現代の若者の悩みが詰まっています。