「ロシアの書籍輸入禁止」と「ロシア音楽の演奏制限」

リュバさんの母は、ロシアのシベリア地方出身で、20代後半にウクライナへ移住した。

「ウクライナ語で話すと殺される」言語による分断はなぜ加速するのか?_d
通訳者のリュバさん

「母はウクライナ語もできますが、発音はロシア語っぽいです。今回の戦争を機にウクライナ語に切り替えようかなと言っています。ネットで映画を観るときは、ウクライナ語の翻訳版をわざわざ探していますね」

こうした一般市民の意識に拍車を掛けるように、ウクライナの最高会議(議会)は6月19日、ロシアの書籍輸入禁止と、公共の場でのロシア音楽の演奏を制限する法案を相次いで可決した。ゼレンスキー大統領の署名を経て成立する見通しだ。

言語はその国民のアイデンティティーを形作る重要な要素の1つだ。ゆえにウクライナ語の使用は、自国を守りたい、あるいはロシアへの抵抗を示す意思の現れである。

しかし、ロシア語を排除する動きが「国を挙げて」となると、話は変わってくる。なぜならロシアは「ロシア語話者を守る」のを口実に攻撃を正当化してきたため、脱ロシア語が政治的な動きに発展すれば、それはロシアに新たな攻撃の理由を与えてしまうからだ。

ウクライナ語かロシア語かをめぐる問題は実に複雑である。

取材・文・撮影/水谷竹秀

#1 戦火のウクライナに留まる邦人男性-「この国を見捨てられない」思いとは
#2 ウクライナ在住20年-「隣国同士で憎しみ合うのは残念」
#4 “それでも私が日本に来た理由” ウクライナ人留学生の決意