「最後まで面倒見ます!」

2023年4月3日。東京はよく晴れ、桜はほぼ散っていた。

北関東在住の黒川信介さん(仮名)は、JR山手線の田町駅からしばらく歩いた慶應義塾大学近くにある8階建てビルの前にいた。自動ドアを入り、エレベーターで6階へ向かう。午前9時の開始時間には、会議室に約30人が集まっていた。

障害者のグループホームを各地で運営する株式会社「恵」の社員研修。ホームの管理者(施設長)向けに開かれたものだ。福祉の仕事に十数年携わり30代半ばを迎えた黒川さんは、求人サイトでこの会社を見つけ、4月1日に入社したばかり。北関東のホームで管理者を任されることになり、研修にやってきたのだった。

「恵」の本社が入っていたビル=2023年8月、東京都港区 写真/共同通信社
「恵」の本社が入っていたビル=2023年8月、東京都港区 写真/共同通信社
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会議室の前列に会社の幹部2人が座り、研修が始まった。管理者の業務や会社のルールを説明していく。だが、黒川さんは話を聞いていくうちに、違和感がどんどん強くなっていった。

「稼働率100%にこだわってください。稼働率を上げるのが最優先です。それには営業しかありません」

「とにかく満床にすることです。満床にすることでスタッフの給料も払えるし、自分たちの給料も高くなるんです」

幹部の2人のそんな話を、周りの出席者たちは一生懸命メモしている。「え? 株式会社ってこういうものなの?」。これまで社会福祉法人などで働いてきた黒川さんは戸惑った。

幹部2人が「営業ではこの言葉を必ず言うように」と指示したのが、次のセリフだった。

「最後まで面倒見ます!」

「営業の練習」もさせられた。隣の席の人と「黒川と申します。よろしくお願いします!」「最後まで面倒見ます!」などと互いにあいさつし合う。

「なんだか、雰囲気がマルチ商法みたいだな……」。黒川さんは「この会社はちょっとヤバいんじゃないか」と不安になった。

だが、黒川さんが本当に「ヤバい」と思うのは、この後。北関東のホームで実際に働いてからのことだった。