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気づかれない「境界知能」と「軽度知的障害」を問題視

現在、私は大学で臨床心理学や精神医学などを教えていますが、それまでは、児童精神科医として公立精神科病院において発達障害児や思春期青年の治療にあたったり、医療少年院や女子少年院の矯正医官として矯正プログラムの開発やグループ運営を行ったりしてきました。

そして、少年院で多くの非行少年たちと出会い、知り得た驚くべき事実と問題点をまとめた本が、2019年に上梓した『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)です。その内容は、少年院には認知機能が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすらできない非行少年が少なからずいるという事実と、そういう少年たちの背景や具体的な支援策について言及したものです。

この本は一見すると「発達障害」の問題をテーマにしているように受け止められる方もおられますが、私が知ってほしかったのは、気づかれない「境界知能」と「軽度知的障害」の問題でした。

近年、落ち着きがない、不注意が多い、こだわりが強い、対人関係が苦手……といった特性をもつ「発達障害」に関する認知はだいぶ広まってきました。

読者のみなさんも、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症といった発達障害の名称を聞いたことはあると思います。書店でも「発達障害」に関する書籍は数多く見かけますが、一方で「知的障害」に関する書籍はあまり見かけません。

「発達障害」が注目される昨今、比較すると、「知的障害」の認知度はかなり低いように感じます。

私は、幼稚園や小・中学校のコンサルテーション(児童の課題を教員みんなで解決していくケース検討会)にも従事してきましたが、そこでも「この子はひょっとして知的障害ではないか?」といった視点が最初から出てきた検討会の記憶はほとんどありません。

「やっぱ無理!」が口癖の男児に下された”軽度知的障害”の診断…発達障害の影に隠れる子どもの知的障害をみわける3つのポイント_1
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意外に知られていない「知的障害」の3つのポイント

ここからは「知的障害」について簡単にお話ししていきます。

厚生労働省では、知的障害について「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義しています。(令和5年7月時点)

知的障害の目安となる基準は3つあります。

①知的機能に障害があること

②その障害が発達期(18歳まで)に起きていること

③日常生活に支障が生じていること