SNSやオンライン署名の功罪
西村 オンラインでは引き上げ反対の署名活動が昨年からたくさんの数を集めていて、それを見る限りでは、いろんな層に対して幅広く訴求しているように見えます。予算通過後もSNSでの署名活動は活発で、現在は当初からの総計で30万筆を超えているようです。
綿野 保団連(保険医団体連合会)の署名ですか?
西村 彼らは署名運動だけではなく、高額療養費の引き上げ反対に関連する様々な記事を紹介するなど、献身的で精力的な活動を続けています。彼らの署名運動を通じてメディアが注目するようになった側面も大きいと思うので、問題の周知には非常に大きな貢献を果たしていると思います。
彼らは毎週火曜と金曜の閣議後厚労相会見でも、上野賢一郎厚労相に厳しく鋭い質問をたくさん投げかけています。ただ、SNSでは言葉遣いが少し煽情的に見えるときがあるのはやや危うい気がするし、最初は石破茂首相と福岡資麿厚労大臣だった宛名人を高市早苗首相と上野厚労大臣に書き代えていることも、厳密なことを言えば署名運動を別のものに切り分けるべきだったとも思います。
他方では、今年2月に保団連がそれまでに集まった25万筆のオンライン署名を厚労省へ手交したんですが、その際に厚労省側から出てきた担当者が保険局長や課長といったそれなりの役職者ではなく、見るからに入省数年目の若手官僚でした。あの対応は署名数の重さを斟酌しない姿勢が露骨で、さすがに誠意と真摯さに欠けると思いました。
綿野 ただ、オンラインの署名活動は、街角に立って署名を何万筆も集めていた頃の運動と比べて、重みがなくなりつつある、とも思います。
西村 でもまあこの時代だから、手軽にオンラインで参加できるのはいいことなんでしょうけれども。
綿野 オンライン署名やSNSのハッシュタグ運動は誰でも参加できるから瞬発的にはバッと盛り上がる。でも忘れやすくて、それこそ「持続可能性」がない。近年のリベラルや野党の側はネットに頼りすぎていると感じています。
1973年に田中角栄内閣で老人医療費無料化が実現しましたが、まず東京都の美濃部亮吉知事が先駆けて東京都で実施していたものです。革新政党が支持する知事がどんどんと誕生して、全国に広がった。そのムーブメントに保守の側も対応を迫られたわけです。
このときの歴史にならって、SNSの飛び道具なんか使わずに、地方で少しずつ陣地をつくって中央に攻め上がっていく、地道だけど地に足のついた活動をしていただきたいと思います。残念ながら、参政党がそういうのをやっていますが。
西村 SNSといえば、参議院の質疑で野党議員からの質問に高市首相が「8月からの開始が患者の意向に沿う」という発言があり、これに対して「負担額引き上げを望む当事者がどこにいるんだ」という強い反発が沸き起こりました。国会質疑を聞いていれば、この首相発言は「8月からの年間上限制度開始が患者の意向に沿う」という意味であったことは理解できるのですが、SNSではあたかも「引き上げが患者の意向に沿う」と発言したかのように引用する左派系デマゴーグがいて、それを見た人たちが短絡的な怒りで燃え上がる、というよくある現象です。
政府側の姿勢を批判するのであれば、野党議員の質問にまともな返答をせず、錦の御旗のように年間上限設定を前面へ押し出すことで、いったい何に答えようとせず、何から目を逸らそうとしているのか、という指摘と批判でなければ有効なものになりません。「上限額引き上げが患者の意向だとは何ごとだ!」と怒ったところで、「そんなことは言っていません」と答えられれば終わってしまうわけですから。
先ほども触れましたが、政府に反対を唱えるためならなんでもかんでも利用する、という姿勢は、異議申し立ての論拠や正当性・正統性を危うくするだけなので、反対意見を装ったデマゴーグの言説に安易に乗せられてしまう傾向はあまり感心しません。
綿野 煽動してなんぼみたいなとこが、ネットのよくないところですね。立場の違いを表明することは大事なんですが、結局は同じ社会で暮らしていかないといけない。むしろ、そういうデマで敵への怒りをかき立てる態度も、「われわれ意識」をぶっ壊しているように思えてなりません。人の生死に直結する高額療養費制度のような問題で理性的な議論を壊してしまうデマやフェイクは非常にまずいと思います。














