高額療養費の議論でも示された、近年の「自民党的な政治手法」とは

〈病人VS現役世代〉という図式にすり替えられてしまった高額療養費制度見直し案…日本社会から消えつつある「みんなで助け合う精神」_2

西村 今回の〈見直し〉案は4月7日に参議院を通過しましたけれども、どんなふうに思いながらご覧になっていましたか?

綿野 議会で審議をしたくない、という政府の姿勢が非常に強く出ていたと感じました。国会で議論をして利害を調整し、皆がある程度納得できる形の法律にしていく、というプロセスを、安倍政権のあたりから自民党政権はすごく嫌っていますよね。

内閣で閣議決定したものを、議論せずに数の力で押し通してしまう。高市さんもその手法を踏襲していて、本人は「議論している」「説明している」と言っているけれども実際には全然してないから、皆の不満が解決されないまま現在に至っている。

社会保障の見直しのなかでも高額療養費制度が狙い撃ちされた理由は「法改正を経ずに閣議決定で制度改正できるからだ」と本書で指摘されていますが、まさにこうした強引な政治手法のターゲットにされてしまった。

西村 本来なら国会は、与野党で法案を揉んで「よりよきもの」を目指して合意形成する場であるはずなんだけれども、与党側はとにかく議論をしたくないし、自分たちが閣議決定した法案を野党に変えさせたくない。要はメンツの問題ですよね。

だから参議院を通過した今回の〈見直し〉案の場合も、野党議員が厚生労働委員会や予算委員会で制度の問題点や矛盾をいくつも的確に指摘していたけれども、政府側はまったく聞く耳を持たないし、「専門委員会等でご議論いただきました」の一点張りで話が噛み合わない。それが日本の国会の常の姿なのかもしれませんが。

綿野 自民党の石破さんがリベラルになぜか人気があったのは、熟議してくれそうな人だという印象があったからでしょう。でも、高額療養費制度〈見直し〉案が凍結されるまでのプロセスを思い返すと、石破さんでさえいままでの自民党と変わらないやん、とがっかりしましたし、高市さんだとなおさら熟議しようという発想はないと思いました。

また、近年の政府の特徴として、「安全を守る」とか「命のために」といった誰も批判できないような大義名分や美辞麗句を全面に押し出して、強権的に政策をすすめるケースが多いように思います。たとえば、今回は「持続可能性」をすごく強調していました。「高額療養費制度の持続可能性を維持する」「国民皆保険を守っていく」と。

西村 このままだと高額療養費制度の持続可能性が危ないですよ、なんてそもそも誰も言っていないんですよ。

綿野 もちろん、人口減少や医療費の増大という課題があるのは、誰もが承知している。それでも、制度を維持したいと当事者や患者団体の人々は議論のテーブルについている。なのに、具体的な指摘や批判をされても、まったく聞こうとしない。「持続可能性」という美辞麗句を掲げて、ぬるっと強権的に政策を進めてしまう。

近年の自民党的な政治手法が、高額療養費制度の件でも使われてしまった、という印象ですね。

西村 高市首相は自身が難病患者であることを公表しているので、今の政権に変わった際にどれくらい患者側の事情を斟酌するのか、あるいは斟酌しないまま強引に押し進めるのか、ということがよくわからなかったわけですよね。昨年秋の自民党総裁選段階では、5人の候補者のなかで唯一、「自己負担額の引き上げに反対」と明言していたんですが。

綿野 共同通信が総裁選候補者5人に行ったアンケートですね。

西村 そうそう。首相になった後の医療関係の政策では、どの政権も上げてこなかった診療報酬の本体を3.09%引き上げていて、社会保障や医療に理解がありそうな面も一部、見せていたんですよね。

この本の中ではあまり触れていないけれども、OTC類似薬を保険収載から外すという問題でも、連立を組んだ維新が「保険から全部外せ」という無茶なことを言っていたのに対して、保険からの適用除外ではなくて患者の窓口負担を増やすという落とし所になりました。それが最適な解決だとは思わないですけれども、維新の無理筋な要求はひとまず矛を収めさせて、落とし所を見つけた妥協点なのかなという気もしないではない。

そういう側面もある政権なので、懸案の高額療養費制度〈見直し〉案にどう対応するのかと思いながら一連の動きを見てきました。組閣後の11月に行われた臨時国会ではどうとも取れるような玉虫色の返事をしていて、その後、12月末に政府予算案の閣僚合意翌日で閣議決定前日、という狭間の日程にあたる12月25日に専門委員会を開催して、反論できないようなタイミングで自己負担上限額の引き上げ額を提示しました。いわば後出しじゃんけんのような形で引き上げ金額を示したわけです。

国会で野党議員がその後出しじゃんけんを指摘すると、上野厚労相や高市首相は「専門委員会でご議論いただいた」と言うわけですよ。患者団体の代表者たちが国会に参考人や公述人として参加した際に、「議論が充分ではなかった」「引き上げ額に納得をしてない」と述べても聞く耳を持たず、その本人たちの目の前で「すでにご議論をいただきました」と平然と言い放つのだから、まったく話にならないですよね。

そのようなことが国会で発生していたにもかかわらず、新聞やテレビなどのマスメディアはトランプ大統領やイラン戦争のニュースで手一杯だったせいか、高額療養費制度〈見直し〉案の問題はほとんど報道しませんでした。メディアを巻き込み世間的に大きな注目を集めて一時凍結に至った昨年と、その点では大違いでした。