統治なき政権の行き着く先

結局のところ高市政権の内部事情は、ガバナンスが欠如し、支える幹部たちがバラバラに動いている感がある。その象徴が会員制情報誌『選択』の記事にあった内閣官房参与の今井や自民党政調会長の小林鷹之との亀裂だと見る政府関係者は少なくない。

複数の自民党議員に聞くと、高市は真剣に日本の自衛隊のホルムズ海峡派遣を考えていたフシがあり、今井だけでなく官邸の幹部や外務省が心配していたようだ。

そんな日米首脳会談をはじめとした高市外交の評価について、自民党政調会長特別補佐の鈴木英敬に『選択』の記事は事実かどうかを確かめるべくインタビューした。さすがに『選択』の記事についての判断はせず、トランプ対応などについて次のように分析した。

取材に応える鈴木英敬氏 撮影/森功
取材に応える鈴木英敬氏 撮影/森功

「あの日米首脳会談は、とてもうまくいったと考えています。総理はずっと事態の早期収束を訴えてきましたので、トランプ大統領との会談でもそれを言いつつ、わが国としての立場も伝えています。イランのアラグチ外務大臣にどこまで力があるのかわからないけれど、日本にはイランと特別な関係があります。

なので、茂木外務大臣を中心にヨーロッパとの関係を強めながら、G7が一体となって向き合っていく形をとれている。そういう形を引き続きやっていくことが大切ではないでしょうか」(鈴木英敬)

加えて、トランプ外交一辺倒ではだめだ、とこう続ける。

「僕はヨーロッパとの連携を非常に重要だと考えています。グリーンランド問題をはじめNATO(北大西洋条約機構)内で米と欧州に溝が入っているなか、ヨーロッパの首脳はしきりに中国の北京詣でをし、放っておくと米欧の溝がさらに広がって欧州がより中国と近くなる可能性があります。

その一方で、フランスのマクロン大統領などヨーロッパの首脳が日本を訪問してくれています。そのあいだを取り持つ形で、日欧がしっかり連携し、日本が米との橋渡しをして事態の早期収束に向かって力を合わせる環境を作っていく必要があります。

あともう一つはフィリピンやベトナムなどASEAN と連携しながら、日本が能動的・主導的に外交戦略を立て、トランプ大統領と対峙していくことが大事だと考えています」(鈴木英敬)

とはいえよくよく見ると、ペルシャ湾情勢における高市外交の成果などは何も見あたらない。目下、米国はパキスタンを介した停戦を模索しているが、高市政権がそこで何らかの役割を果たした形跡もない。外交上、どこが進展したのかさっぱり見えないのである。早晩、日本国内も混乱していくのではないか。

「日本でいえば年内いっぱいの原油の確保はできていますが、(与党の)イラン関係の合同会議でも国民へのメッセージとして具体的なデータで大体ルートなどを示すべきだと申し上げました。

たとえば石油はサウジアラビアやUAE 、アメリカやアゼルバイジャンなどからいつまでにどのくらい調達できるか、そこに応じてどのくらい備蓄を放出しないといけないか、と一定の具体的なデータを示し、場合によっては行動変容が必要といったメッセージを国民に早期にお示しする必要があると思います。そのロードマップは大事でしょうね」(鈴木英敬)

常識的に見て原油価格の高騰が長引くのは誰の目にも明らかだ。なのに、国内の政策でもさしたる手を打っていないのが実情ではないか。

高市は独断で物事を決めるきらいがあり、出てくる政策や国会運営が無理筋に感じる。限られた側近以外は首相執務室に入れないと『選択』に書かれている事実はないのか。鈴木自身が高市本人と会って助言することはあるか。そこも尋ねた。

「私自身、あの場にいたわけでもないので、『選択』の件はわかりませんが、私は自民と維新が提出した副首都構想の実務者協議の事務局長をしています。それで新聞の首相動静欄にも私の名前こそ出てないけれど、実は3月31日には総理の執務室で直接お会いしました。法案骨子で合意したので報告に行ったのです。

そのときの総理はすこぶるお元気でしたし、笑顔もありました。木原稔官房長や尾崎正直官房副長官とお話をさせてもらうことが多く、官邸内は意思疎通がなく、風通しが悪いように書かれます。けれど、お二人は総理のご意向やお考えを的確かつリアルタイムで受け取っておられる感じがします」(鈴木英敬)

木原や尾崎たちは高市の受け入れる限られた側近でしかない。問題は、首相が各省庁の幹部から政策面でのアドバイスを受け付けないところである。

イラン情勢を含めた話に戻すと、高市外交では政権発足当初から始まったパフォーマンスから何も進んでいないではないか。その点について元外交官が苦言を呈する。

「高市さんは昨年10月に首相就任早々にASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議でマレーシアに行き、今年3月に訪米してトランプと会いました。それらは石破政権時代から予定されていた外遊で、彼女のパフォーマンスが国民にウケたに過ぎません。

しかし、そのあとの韓国の李在明や仏のマクロン、インドネシアのプラボウといった首脳たちとは、みな日本国内で会っています。外務省は高市さんが外遊嫌いだとわかっているから、外遊日程を入れないようにしているようです。

高市さんはヘビースモーカーなので海外でタバコを吸えないストレスもあり、それに加えて脳梗塞の後遺症がある夫の山本拓さんの介護という理由もあり、日本から2泊以上離れられないらしい。それでは中東の湾岸諸国を歴訪できません。安倍総理は第一次トランプ政権時にイランのハメネイに会いましたけれど、そんな発想はハナから彼女にないでしょう」

高市は夫の介護を自ら明かし、周囲に風呂に入れなければならないので夕方に公邸に帰宅しなければならないと話しているという。が、それと外交が別問題なのはいうまでもない。

米国のイラン攻撃を国際法違反の疑いありと指摘し、ローマ教皇のレオ14世に対するトランプの誹謗を批判するイタリア首相のジョルジャ・メローニの外交姿勢と高市外交が比べられるのは、むべなるかなである。

高市早苗はかねてより持病の関節性リューマチを公表し、2月の総選挙以来、右手に保護手袋をつけたまま国会に臨んでいる。小食なうえショートスリーパーなので永田町や霞が関で健康不安も囁かれている。

『選択』の記事ではないが、そうした事情もあり、先に触れた茂木のみならず、ポスト高市の行方が注目されるようになった。意外なところでやる気を囁かれているのが岸田文雄だ。日本・イラン友好議員連盟会長の岸田はさる3月24日の総会で自民党議員たちを前に言った。

「あらゆる外交チャンネルを駆使して解決に向けて汗をかかねばならない。日米同盟を基軸にバランスをとりながら、国益をどう守っていくのか」

総会には岸田と旧知の駐日イラン大使ペイマン・セアダットも招かれ、評判になった。参加者の一人が打ち明ける。

2023年9月20日、ニューヨークでイランのエブラヒム・ライシ大統領と会談する岸田文雄元首相。提供:Iranian Presidency/ZUMA Press/アフロ
2023年9月20日、ニューヨークでイランのエブラヒム・ライシ大統領と会談する岸田文雄元首相。提供:Iranian Presidency/ZUMA Press/アフロ
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「第二次安倍政権で外務大臣を長く務めた岸田さんは、多くの外交団体の代表をやっています。日本イラン議連の会長もその一つで、イランとのパイプがあるのはもちろんですが、日仏友好議連の会長もやっています。だからマクロンは高市総理と会ったあと、岸田さんと会談しているのです。

つまりマクロンもイラン問題で岸田さんと会う必要があるからそうしたでしょう。なぜ、高市総理はそれがわからないのか。元総理の議員外交として、高市さんが岸田さんを特使に立てるべく、岸田さんに頭を下げればいいのですが、それもできない」

1994年の核開発問題で米元大統領のジミー・カーターが北朝鮮主席の金日成と会談したように、元国家元首による外交は枚挙にいとまがない。だが、政治基盤の弱い現職首相としては、手柄を持っていかれる恐怖感が先に立つのかもしれない。岸田に野心の腹づもりがあるかどうはさておき、外交手腕には一定の評価もある。

高市は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想を打ち出しているが、これも岸田が第二次安倍政権の外務大臣時代に打ち出した政策であり、岸田政権でも継続してきた。公益財団法人「日印協会」の会長は安倍から引き継いだ菅義偉が務めてきたが、菅の政界引退により、このポストが宙に浮いている。そこに岸田を持ってくる案も浮上し、岸田の存在がクローズアップされている。

高市にとってはますます岸田を脅威に感じているのかもしれないが、そんな悠長な事態でもない。ことほど左様に不安定な政権といえる。(敬称略)

取材・文/森功