1ヵ月で教師の心を折った2年生の暴言

そんな教室の光景は、最初は「今風の学級崩壊」にも見えましたが、じっくり眺めていくと「昔風の崩壊」でした。一見、「対先生」という軸がなく、ただ好き勝手にやりたい子どもが暴れている「今風」と思われましたが、じつはベクトルは先生に向けられていました。先生が子どもたちから追い詰められているのを私が知ったのは訪問する直前でした。もともとは先生がターゲットになっていたのです。

この学校への訪問は、以前から知っていた男性の先生に招いていただいてのことでした。その年の3月末、依頼の主旨はこういった内容でした。

「学級崩壊で知られるこの学校に赴任することになった」

「新2年生の学年になる子たちがなかなか厳しい」

「教室での暴言、陰口が続いている」

4月が近づき、その先生が「教務主任になった」と聞きました。校長や教頭と同じくクラスを担任せず、全体のケアをしていく役割です。実力があるからこそ、管理職に近い役割を任されるようになったのです。

もともと、その先生の専門は「学級運営」でした。大都市では教科領域別に研究会があって、先生たちがそこに属します。その領域ではエースと見なされている先生でした。実際に授業を見たこともありますが、はきはきしていて非常にいい印象でした。

しかし、5月にはもうその先生は学校にいませんでした。1ヵ月ほどしか耐えられず、精神的に追い詰められて休職していたのです。教務主任として、時折このクラスにも道徳を教えに行ったそうですが、かなりの暴言を吐かれたと。

「誰?あんた」

「うるさいねん」

そのまま7月に辞職してしまいました。いまは他市で臨時講師として働いていて、元気になっているそうです。

飛び込み授業に行くと、その後はたいがい学校側と研修会やセミナーなどがセッティングされています。

私はその日だけは「呼ばれた立場で言うのはいかがなものかと思いますけど、だから、こっち向いて言いますと」くるっと壁のほうを向いて、こう話しました。

「これはね、学年を2クラスに分けたほうがいいですね。単学級をやめたほうがいい。2年1組と2組に分けるのです。学年の途中であっても。でないと、この担任の先生は潰れますよ。いますでにひとり潰れているじゃないですか。このままだと高学年ではもっと大変になります。学校自体が崩壊してしまいかねません。今だったらまだ間に合うと思います」

それから1週間後にこの学年は2クラスに分かれたそうです。年度の途中にクラス替えがあるというのは異例なことですが、学校側は私の「アイデア」を実行されたのです。

一方、この日、口にしなかったことがあります。そもそもいまの授業の進め方がよくない、ということです。ただ受け身の授業で、面白くないから、じっとしていられないのだろうと。私が飛び込み授業で子どもたち同士のコミュニケーションを仕向けても、とても考えを話し合うというような状況ではなかったのです。

文/菊池省三 写真/PhotoAC

『足型をはめられた子どもたち』(講談社)
菊池省三
『足型をはめられた子どもたち』(講談社)
2026/4/9
1,210円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4065404720

【大事に育ててきたわが子がなぜ? どうして子どもが小学校で壊れていくの? 子どもはどうすれば成長するの? その疑問への回答と解決策!】

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」、日本テレビ系列「世界一受けたい授業」などで、崩壊した教室を立て直す授業が紹介され大反響を呼んだ、菊池省三先生のコミュニケーション教育。子どもの生きる力を伸ばすメソッドへの支持は拡がり、講演や研修会は年間250回に及んでいます。
現役を引退し、教師の指導者として全国の小学校に招かれ、10年のあいだに行った飛び込み授業(示範授業)は3000時間超。各地の教室をもっともよく知る教育者です。
そこで出合ったのが「机の下の足型」に代表される子どもを「型にはめる教育」。
今子どもたちの現状は、不登校が44人に1人、暴力行為やいじめも過去最多。一方の教師も、精神疾患で休職する人数が過去最多を更新し、なり手不足が進んでいます。

子どもの98%が通う公立小学校で、学習意欲を上げさせたり、事態を改善させたりするために対症療法として行ってしまいがちな「型にはめる」教育が、悪いサイクルとなっています。

本書では、公立小学校の現状を知っていただき、その解決策として荒れた子どもたちを変えてきた菊池先生のコミュニケーション教育を紹介。たとえば学習意欲は、型にはめなくても、子どもの内面が成長すれば増すことがよくわかります。
保護者のみなさんにとっても、子育てについての認識が180度変わる「ほめ方」や「叱り方」「語彙の増やし方」「考える力のつけ方」など、子どもを社会に送り出すために、家庭でできる実践法をお伝えします。

第1章 足型をはめられた子どもたち――学校における教育虐待
第2章 なぜ、コミュニケーション教育で子どもは成長するのか
第3章 今風と昔風の学級崩壊――立て直し請負人による飛び込み授業
第4章 コミュニケーション科の学びとは? その効果とは?
第5章 堀之内くんと学級の2年間――集団の中で個を育てる
第6章 家庭でもできる菊池式実践法――子どもを「眺める」から始める

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