緩和ケアとは何か

こうした身体的な痛みやつらさ、心理社会的な苦痛、スピリチュアルペインを和らげる医療として「緩和ケア」がある。緩和ケアは、1960年代にイギリスで始まったホスピスケアの考え方を受け継ぎ、1970年代にカナダで提唱されたものである。世界保健機関(WHO)は2002年に、緩和ケアを次のように定義している。

「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである」

日本でも、緩和ケアは徐々に浸透しつつある。『ホスピス緩和ケア白書2024』によれば、2022年度には全がん患者の16.5%が緩和ケア病棟で亡くなったと推計されている。緩和ケア病棟とは別に、2006年以降は、全国のがん診療連携拠点病院には緩和ケアチームの設置が義務づけられ、緩和ケア外来も設置されている。

さらに、2016年には「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」が診療報酬制度に新設され、在宅緩和ケアも推進されている。1990年代以降、アメリカやカナダでは高齢者医療と緩和ケアを統合し、がんのみならず認知症や脳血管障害など広く高齢者の疾患を対象とするケアとして「エンド・オブ・ライフ・ケア」という考え方も広まっている。

近年増加する緩和ケア病棟
近年増加する緩和ケア病棟

がん医療の現場では、がんと診断された時点から、患者の身体的苦痛だけでなく、患者・家族の精神的・社会的・スピリチュアルな問題に対応し、苦痛を和らげるための緩和ケアが定着しつつある。仕事や家庭など社会的な悩みや困りごとについては、患者総合支援センターや医療相談室などに所属する医療ソーシャルワーカーが対応している。

しかし、緩和ケアに関する知識や情報が社会全体に十分に共有されているとは言いがたい。「緩和ケアは治療ができなくなった終末期に行うもの」「がんの痛みや苦しみは我慢するしかない」といった古いイメージを持つ人も少なくないのが現状である。

ホスピス財団では、講演会の開催や機関誌の発行などを通じて、緩和ケアやホスピスケアへの理解を促すための啓発活動を続けている。