根強い「家族に迷惑をかけたくない」という思い

みずからの老いや死、死後のことについて考えるとき、「家族に面倒をかけたくない」「子どもに負担をかけたくない」と考える人は多い。闘病中の患者の中には、「まわりの人に迷惑をかけてつらい」といった負担感を抱えている人も少なくない。

厚生労働省の『令和4年 高齢者の健康に関する調査』によれば、排泄などの介護が必要になった場合に不安に感じることとして、最も多く挙げられたのは「家族に肉体的・精神的負担をかけること」(65.6%)であった。「身体の自由がきかなくなること」(53.6%)との回答よりも高い割合であったことから、自身の身体状態への不安以上に、家族への負担を心配する人が多いことがうかがわれる。

同財団の2023年調査では、「ぽっくり死にたい」理由として、「苦しみたくないから」(69.0%)に次いで、「家族に迷惑をかけたくないから」(59.8%)が多く、ぽっくり死を理想と考える人の約6割がそのように考えていた。

つまり、ぽっくり死を望む背景には、自分が苦しみたくないという思いと同時に、家族に迷惑をかけたくないという意識が根強くあるといえる。

介護のイメージ
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「ぽっくり死」を希望する人の割合は年齢が上がるにつれて増加する傾向があることから、特に高齢者において、介護を担う家族への負担を懸念する人が多いと考えられる。家族の世話にまったくならないというのは現実的ではないかもしれないが、できるだけ迷惑をかけたくないという気持ちは理解できる。

日本思想史を専門とする本村昌文氏は、こうした「迷惑」意識は、介護や世話をする人への「思いやり」の心情と密接に関連しながら形成されてきたと指摘している。

このように考えると、「ぽっくり死」願望は、長患いによって家族の負担になりたくないという願いの表れであり、ぽっくり死ぬこと自体が目的ではないともいえる。家族にとって迷惑でなければ、「ぽっくり死」でなくてもよいのではないだろうか。

#2に続く

文/坂口幸弘 写真/Shutterstock

人は生きてきたように死んでいく 「死の準備」してますか?
坂口 幸弘
人は生きてきたように死んでいく 「死の準備」してますか?
2026/3/18
990円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4334109257
死や死別は誰もが経験する。切な人とのつらい別れを経験した人も少なくないだろう。「多死社会」を迎えつつある日本で、どのように自分の死を迎えるか、大切な人の死に向き合うかの現実味は増しているが、迫りくる死や予期せぬ別れに直面して戸惑い、どのように向き合えばよいのか分からず途方に暮れることもある。臨床死生学・悲嘆学を専門とする著者が死に関する研究データなどをもとに現代における死との向き合い方を考察。
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