自由でいられる「知の宇宙」
——近年は多様な真実が登場し、情報の取捨選択自体が難しくなっています。たとえば、SNSでは陰謀論なども爆発的に出回っていますが。
もともと「天下国家」の話には興味がないんです。トランプや習近平がどうしようと、私がそれを変えることはできません。ストア哲学は「自分が変えられること」と「変えられないこと」を分け、「変えられること」に集中するよう説きます。
この世界がどのようなルールで成り立っているのかを知るのは大事ですが、そのルールを個人の力で変えるのはほぼ不可能でしょう。自分自身の経済的土台を構築し、人的資本に一極集中しようと思うのは、 自由でいられる唯一の場所が、誰にも侵入できない自分の「知の宇宙」だからです。
——AIの登場で「知」の価値が揺らいでいるともいわれますが、そんな今、読書の価値はどこにあると思われますか?
知識社会は定義上、高い知能を持つ者に大きなアドバンテージがある社会なので、これからはその格差がさらに拡大するのではないかと思います。
知識やアイデアをマネタイズできる人間が、富とステータスを独占していく。AIに仕事を奪われるのではなく、AIを使いこなし、自分の能力を拡張できる人間にとっては、こんなに面白い時代はないのではないでしょうか。
読書は、著者が一生をかけて獲得した知識を、わずか数時間、数千円で自分のものにできる得難い機会ですから、これほど効率の良い〝投資〞は他にありません。
まずは自由な時間を確保し、ジャンルのちがういろいろな本を読めば、これまで知らなかった知の世界を体験できるし、それが人的資本に反映される。すくなくとも私にとっては、これが人生を楽しむ秘訣になっています。
文/橘玲
(集英社クオータリー コトバ 2026年春号より)
2026/3/6
1,550円(税込)
166ページ
ISBN: -
特集
あの人の読書習慣
あの人は、どう本を読んでいるのか?
SNSで言葉があふれるいま、ゆっくりと本を読むことは、
世界との距離を測り直す行為かもしれません。
コトバは、本を読むという営みをもう一度見つめます。
Part1どう本を読むのか?
池上 彰 30年後に役立つ読書
内田 樹×岩田健太郎 読書という快楽の深め方
石破 茂 読書は「無知の恐怖」を教えてくれる
杏 林芙美子の旅と“起源本”から学ぶ幸せ
角幡唯介 読書がもたらす“ズレ”にこそ人生の醍醐味がある
小林ふみ子 江戸庶民の読書習慣
川口則弘 直木賞から広がる読書体験
Part2本の場所、読書の場所
鹿島 茂×亀井崇雄×杉本佳文 本の街 神田神保町の現在・過去・未来
永井玲衣 「人間なめんなよ」の読書論
児島 青 本と人がつながる星座のような物語
水野太貴×一ノ瀬翔太 企画者たちの読書対談
前川仁之 井上ひさし、遅筆堂文庫を訪ねて
Part3読書が変える、読書が変わる
荒俣 宏 蔵書のゆくえ、読書の到達点
橘 玲 読書はタイパ&コスパの良い“投資”
酒井邦嘉 言語脳科学から見た紙の本と電子書籍
町田 樹 実践知と学問知をつなぐ書物の世界
石黒 圭 他者と共存するための「読みの多様性」
飯田一史 「聴く読書」の否定は人権侵害である
中江有里 本が孤独に寄り添ってくれた
【対談】
山岡淳一郎×須賀川 拓 「人間・中村哲」が託したもの
【短期集中連載】
腹巻猫 劇伴哲学 樋口真嗣
磯部 涼 ルポ 川崎2
連載
大岡 玲 写真を読む
山下裕二 美を凝視する
山極壽一 ますます「サル化」する人間社会
三宅陽一郎 文学がなければ人工知能はない
足立倫行 古代史を考えなおす
橋本幸士 物理学者のすごい日記
宇都宮徹壱 法獣医学教室の事件簿
赤川 学 なぜ人は猫を飼うのか?
町田麻子 ことば万華鏡 ミュージカルの訳詞の妙技 南陀楼綾繁 愛と憎しみの積ん読
木村英昭 月報を読む 世界における原発の現在
おほしんたろう おほことば
【kotobaの森】
著者インタビュー 小森真樹『歴史修正ミュージアム』
マーク・ピーターセン 英語で考えるコトバ
大村次郷 悠久のコトバ
吉川浩満 問う人
町山智浩 映画の台詞