雪崩事故を防ぐための知見と装備の重要性
スキーヤーによる人的誘発雪崩は、滑走者のみならず登山者への二次災害も甚大だ。雪崩を避けるべく気象や地形を考慮し登山する熟練者でも、急に発生する人的誘発雪崩の前にはひとたまりもない。
2025年5月13日、長野県の北アルプスの北穂高岳で登山中の3人が雪崩に巻き込まれ、62歳の男性が死亡した事故があった。死亡したのは北杜市に住む伊藤勝さん。地元メディアが「登山者の滑落による雪崩」と報じたが、その後、半年以上にわたる警察の捜査で、スキーヤーが誘発した雪崩だったということが判明した。
伊藤さんの妻(61歳)のSさんは語る。
「昼近くになり気温が上昇したので、夫は保温着を脱ごうとリュックを下ろしてヘルメットを外した、まさにその瞬間でした」
突如スキーヤーが現れたかと思うと雪崩が発生。Sさんも流され岩にたたきつけられたが、背負っていたリュックがクッションとなり、その反動で雪の中から飛び出し擦過傷と打撲だけですんだ。リュックもヘルメットも外した、いわば丸腰状態で流された伊藤さんは多発外傷でほぼ即死状態だった。
「雪崩に埋もれてしまった場合、生存確率は時間に左右されます。統計データによると、15 分を過ぎると生存確率が急激に低下します。雪山でヘリコプターを呼んでも 15 分以内に到着して掘り出しまでおこなうことは難しいため、同行者による迅速な救助が生死を分けます」(尾関氏)
したがってスキーヤーも登山者も、単独行動を避けることが重要だ。そして地形の特徴の把握し、移動する際は、可能な限り雪崩地形を避ける。そして常に風、降雪、気温の変化に気を配り、危険区域に入らないことが大切だ。
「気象庁の雪崩注意報は、斜度や斜面方位を考慮せず、降雪量や気温という基本的なデータのみで発令されています。例えば、一定の積雪量に達したら自動的に注意報が出される仕組みになっており、広いエリアで一括発令されるため、同じエリア内でも危険な場所と全く問題ない場所が混在。
実際には、同じ地域でも地形や積雪状況によって危険度は大きく異なります。気象庁の雪崩注意報は発令率が高すぎて、外れることも多いため、ユーザーは『またか』と考えてしまう危険性がある。注意すべき気象条件は大量降雪直後、強風時や吹雪の最中、または風が弱まった直後、急激な昇温や大きな気温変化」
と、尾関氏は力説する。
加えて重要なのが命を守る装備である。冬山における命を守る三種の神器と呼ばれるのが、雪崩で埋まった人の位置を電波で探す雪崩トランシーバー(ビーコン)、ブローブと呼ばれる雪中の埋没位置を特定する棒状の探査器具、そして埋没者を掘り出すショベルだ。この「ビーコン・プローブ・ショベル」の三点セットは、欧米ではバックカントリースキーの基本装備として広く普及している。
さらにエアバッグ付きバックパックやヘルメットも欠かせない。エアバッグは雪崩の中で体を表面に浮かせる効果があり、埋没リスクを減らすとされる。またヘルメットは、雪崩で木や岩に衝突した際の頭部外傷を防ぐ役割がある。













