「金太郎、鯛と会社を語る。」(集英社文庫・コミック版1巻収録)

天下りの有能社長と人情派の会長

理想の経営者とは、いったいどんな人物なのか。会社を大きく成長させる剛腕をふるう人か。それとも、社員が安心して働ける空気を作る人か。『サラリーマン金太郎』第8話は、そのどちらかを簡単に選べない、いやらしい問いを投げかけてくる。

この回の主役は、金太郎ではあるが、同時にヤマト建設の会長でもある。物語は、会長と金太郎が釣りに出かける場面の朝から始まる。ここで金太郎は、7年前からヤマト建設で起こった変化を水木から聞く。

ヤマト建設はかつて伸び悩んでいた。そこに現れたのが、現在の社長・大島。天下りで会社にやってきてから、官僚人脈をフル活用し、公共事業を次々と獲得。銀行融資も引き出し、会社はわずか7年で大躍進を遂げた。数字だけを見れば、文句のつけようがない「有能な社長」だ。

だが、その一方で、会社は変わってしまった。役員は社長派で固められ、創業から会社を支えてきた叩き上げ社員は次々と居場所を失っていく。かつては会長を中心に、多少小さくても、明るく風通しのいい会社だったはずなのに、今では上の顔色をうかがいながら仕事をする空気が支配している。

会長は、そろそろ身を引くつもりだと金太郎に打ち明ける。いまのヤマト建設には、自分がいなくてもうまく回っていくことがわかっているのだろう。

ここで金太郎が口にするのは、経営論でも改革案でもない。

「じいさんの顔見てるときは みんなおだやかな顔している」「しかしよォ 社長の顔を見てるときはビクビクしてんぜ」

それだけだ。金太郎自身、会社のことは「何もわかっていない」と言い切る。まだ会社に来てからたった一ヶ月、鉛筆削りしかしていない金太郎にわかるはずもない。

それでも、その一言は重い。有能な天下り社長を評価すべきか。社員の居場所を守ってきた会長を評価すべきか。どちらも正しい。どちらも否定できない。

天下りを単純な悪として描かず、そのメリットにも目を向けることで、本作は一言では語れないサラリーマンのもどかしさを、ここで浮かび上がらせる。

『サラリーマン金太郎』第8話は、会社という場所が抱える「究極の二択」を、残酷なまでにリアルに突きつけてくる。