多国籍なイギリスで出会った「ある言葉」とは

本来「音大おじさん」という言葉には、「純粋な音楽ファン」という意味も含まれていたという。しかし今では「すっかり悪い意味でつかわれることが多くなってしまった」と原田氏は話す。

「ただ、私が思うのは、ひとりの人間の中にいろいろな面があるということです。私だって、すべてが正しい人間というわけではありません。

今回の動画も、誰かを非難することが目的ではなくて、『自分の中にもそういう部分があるかもしれない。だから一緒に省みてみよう』ということを伝えたかったのです」

ロンドンの地下鉄(写真/PhotoAC)
ロンドンの地下鉄(写真/PhotoAC)

取材の最後に、原田氏はある言葉を教えてくれた。

「『アクティブバイスタンダー(Active bystander)』といって、差別を見かけた時に居合わせた第三者がさりげなくカットインする方法があります。言葉自体は、行動する傍観者という意味です。

イギリスでは、電車内などで差別的発言やハラスメントなどを見かけた際、傍観者がそれを邪魔する際の例文などが広告として掲示されています。たとえば『この電車はどこ行きですか』とか『今何時ですか』などです。

『音大おじさん』の問題でもこの方法は有効だと思います。もし演奏会場で迷惑行為を目撃したら、当事者でなくても『すみません、出口はどこですか』などと割り込むことで救える場合があるかもしれません。演者でも共演者でも、あるいは観客でも、できることがあると思います」

こうした問題について相談できる窓口の一つに、東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」がある。

東京都とアーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)が運営する、アーティストや芸術文化の担い手を支援するプラットフォームだ。

都内で活動するアーティストらが持続的に活動できるよう、弁護士や税理士などの専門家、外部機関とも連携しながらオンラインを中心に総合的なサポートを行なっている。

「アートノオト」ロゴ(写真/アーツカウンシル東京提供)
「アートノオト」ロゴ(写真/アーツカウンシル東京提供)
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相談が寄せられた際の対応について、センターの担当者は次のように説明する。

「芸術文化の知識・経験を持つ相談員が対応し、解決に向けてお手伝いします。内容によっては、適切な関係機関におつなぎしたり、弁護士などの外部専門家をご紹介します。

コンサート会場での来場者による迷惑行為については、東京都カスタマーハラスメント総合相談窓口をご案内する可能性もあります」

取材の中で原田氏は、「こういう問題は、いつも被害を受ける側が説明のコストを負わされてしまう」と語った。今回の発信は、音楽業界で長く語られてこなかった問題を可視化するきっかけとなったといえる。

世間に流通する俗称は「音大おじさん」であるが、若い人でも、女性であってもこのような加害者はいるだろう。誰もが当事者になり得るこの問題について、議論が進むことが期待される。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班