初めての“北方水滸伝”

──北方謙三さんの作品を読まれたのは今回の『水滸伝』が初めてだそうですね。いかがでしたか。

木村達成(以下同) 僕はもともとあんまり小説を読むタイプじゃないんです。子どもの頃も外で遊ぶのが大好きだったほうなので。

『水滸伝』を読み始めた時も、正直、最初はちょっと読みづらいと思いました。1巻読み終わるまでにどれくらい時間がかかるんだろうと不安で。でも、だんだんと物語にのめり込んでいって、読むスピードが上がっていきましたね。

──北方さんはそぎ落とした文章で人物を立たせていきますよね。登場人物たちのエピソードがそれぞれ面白くて。

出てくる男たちがみんな「渇いている」と思いました。とくに最初のほうは潤いを求めて彷徨っているようなイメージですね。求めているけれど得られていない。素朴な感想ですけど、こんなにたくさんの男たちの渇きが書き分けられているのはすごいことだなと。

──しかも最小限の描写で想像させる。印象に残っているフレーズはありますか。

各章の最初の一行がどれも印象的ですね。第一章(天罡(てんこう)の星)の書き出しが「頭ひとつ、出ていた」。魯智深(ろちしん)のことなんですけど、パッと大男のイメージが浮かびました。次の章(天狐の星)の「古来、塩の道というものがある」という書き出しも好きですね。塩の道ってどんなものだろうって興味をそそって。

第三章(天罪の章)は「舳先に立っていると、さすがに風が冷たかった」。前章とがらっと場面が変わって、河の上。船で荷物を運ぶ阮小五(げんしょうご)の話にすっと入っていく。情景が思い浮かんで、世界に没入できるんですよね。

──1巻で印象深い場面はありますか?

林冲(りんちゅう)張藍(ちょうらん)のシーンですね。林冲が妻の張藍が浮気をしているんじゃないかと吹き込まれて、家に帰ってくると男と二人きりの張藍がいた、という場面なんですが──

『何者だ』
 言うと同時に、林冲は剣を抜き放っていた。
 待てという男の言葉と、あなたという張藍の叫びが重なった。次の瞬間、林冲は男の躰を、頭蓋から両断していた
(北方謙三『水滸伝』第一巻「曙光(しょこう)の章」集英社文庫 p.89)

頭蓋から両断ってどういうこと? って度肝を抜かれました。林冲の剣の冴えもすごいですが、何の躊躇 ( ちゅうちょ)もなく一瞬で決断しているってことですよね。

──心情をくどくど説明するような文章はないんですよね。

だからこそどんな気持ちだったんだろうって考えるんでしょうね、読者は。その代わり、どんな動きをしたかが目に浮かぶように書かれているから想像できるんですよ。

俳優の木村達成さん
俳優の木村達成さん
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