中国人観光客の存在感はまだ大きい

日本にとってみれば、インバウンド市場の多角化は進んでいるものの、中国人観光客の存在感はまだ大きい。今回の自粛は、偶然でも感情的な反応でもない。中国の対米戦略の中で、日本経済の対中依存が外交カードとして活用されている。

中国による渡航自粛が「管理型の圧力」として常態化しつつある中で、日本にとって最大の課題は、こうした揺さぶりに振り回されない体制を築けるかどうかが正念場だ。

近年、日本は市場の分散化を進めている。日本政府観光局の統計を見ると、韓国、台湾、欧米、オーストラリアからの訪日客は堅調に増加しており、「中国一極型」からの脱却は着実に進みつつある。これは、日本にとって重要な前進だ。

しかし、地域や業種によって依存度の差はいまだに大きい。とくに中国人観光客を主要な顧客としてきた観光地は、需要の変動が経営に直撃する状況が続いている。今回の自粛によって予約キャンセルや客足減少が起きれば、雇用や資金繰りにまで影響が及ぶ。こうした不安定さが常態化すると、長期的な投資は厳しくなる。

中国人観光客が増加している韓国(撮影/集英社オンライン)
中国人観光客が増加している韓国(撮影/集英社オンライン)

渡航自粛は、日本にとって一つの警告

管理型圧力が続けば、観光需要は「戻るかもしれないが、また止まるかもしれない」。企業にとって最も避けたい環境であり、地域経済の体力をじわじわと削っていく。

いま最も日本に求められているのは、単なる市場分散にとどまらない構造転換だ。特定国への依存を抑えるだけではなく、高付加価値型観光の育成や長期滞在型需要の開拓、国内観光との連携強化など、安定性を重視した戦略へと軸足を移す必要がある。

政府や自治体も、インバウンドを「外部環境に左右されやすい産業」という事実を踏まえて安全保障の観点でリスクと対策を検証していくことが求められる。訪日客は増えれば良いという短絡的な政策では、同じ問題が何度でも生まれる。

今回の渡航自粛は、日本にとって一つの警告でもある。便利さや市場規模だけに依存してきた構造を速やかに見直さなければ、今後も“訪日自粛”という圧力カードに振り回されるだろう。

日米同盟が国防の中核でありながら、経済は中国に依存するという板挟みを解消できるかどうか。その分岐点に、今の日本は立っているのである。

文/村上ゆかり 写真/shutterstock