「金太郎、髪を切る。」(集英社文庫・コミック版1巻収録)

お世話になった上司に、あなたは「餞別」として何をあげますか?

餞別とは、日本独自の慣習のひとつ。転勤や引っ越し、留学、退職など、新しい場所へ向かう人をねぎらい、気持ちを込めて贈るものだ。

贈る品によって意味合いもさまざま。選び方は本当に千差万別だ。では、型破りすぎるサラリーマン・金太郎は、はじめて「この人は男だ」と認めた上司に、何を贈ったのだろうか。

『サラリーマン金太郎』第5話では、“エレベーター事件”で金太郎と真っ向から言葉をぶつけ合った黒川専務が、電撃退陣するという噂が社内を駆け巡る。

会長派だった黒川専務は、社長派の勢力拡大にともない、どうやら会社を去ることになったらしい。その話を聞いた金太郎は、

「あの人、男だったぜ。ああいう人が辞めなきゃならねえのも、やっぱりサラリーマンだからかネ」

と、珍しく物思い顔を浮かべる。

そんな金太郎、“男の約束”を果たすべく、黒川専務に言われた通り、社内で自分の髪の毛をバッサリ。さっぱりしたその姿に、女性社員からは黄色い歓声が上がる。

そして金太郎が黒川専務のために、餞別として用意したのが――手作りの釣りの「ウキ」。

ウキ!? なぜウキ?

一般的な餞別といえば、現金や商品券が定番。まあ、定番かつ無難な選択だ。

ほかにも、「新しい場所でも使って(頑張って)くださいね」という意味合いから、ハンカチやタオル、文房具、パスケース、マグカップなどの実用品をあげることもある。お菓子やコーヒーといった“消えモノ”も手軽で人気。

一方で、忌み言葉のニュアンスから、「縁を切る」を連想させる刃物や、「苦」「死」を連想する櫛(くし)は避ける、なんて文化もある。

……そう考えると、金太郎の「ウキ」は、かなり異色だ。正直、一般的な餞別の文脈では、どう解釈していいかわからない。

でも、もし、「沈んでも、また浮かんでこいよ」――そんな気持ちが込められていたとしたら?

不本意な退陣を余儀なくされた黒川専務の境遇にまさにピッタリで、一気にグッとくる。

意味を説明しすぎないからこそ、読み手が勝手に想像してしまう。金太郎と黒川専務の表情を見ながら、二人のあいだにどんな思いややり取りがあったのかに思いを馳せる。『サラリーマン金太郎』第5話は、そんな“粋”を感じさせてくれる一編だ。