加害者は刑務所に

捜査一課の方から、「被害者が被害に遭った現場の写真を撮らせてほしい」「お母さんの供述調書を作成したい」「加害者がお母さんに話した際の録音データがほしい」などと、次々に依頼がありました。これまでそんなこともやってなかったのか、警察署はいったい何を捜査していたんだろう、という失望もありましたが、捜査一課のスピード感に感謝しました。

そして、改めて画像解析の結果、「強姦未遂罪」に問えそうな写真がある、ということで、まだ時効が完成していない強姦未遂罪での立件に向けての捜査が始まりました。捜査一課が本格的に入ってから一か月半ほどで、加害者は逮捕されました。

加害者は起訴され、刑事裁判が行われました。加害者は、時効となった強制わいせつについては罪を認めていましたが、強姦未遂については否認していました。

しかし、第一審で実刑判決が下され、加害者が控訴したものの棄却され、娘さんの望み通り、加害者は刑務所に入りました。裁判でもいろいろと大変なことはありましたが、娘さんは、加害者が服役したことで少しずつ回復しています。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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私は、このお母さんじゃなかったら、事件は立件できなかったと思います。諦めずに3度もハートさんに電話したこと、警察に「不要」と言われた加害者の話の録音を消去せずに持ち続けていたことなどは、なかなかできることではありません。

刑事裁判の判決が確定した時、お母さんに「よく諦めなかったですね。普通は、録音など消してしまうものですが、そのまま保存してあったし、全ての対応が素晴らしかったです」と声をかけました。すると、お母さんは、「諦める選択肢は最初からなかったです」と答えたのです。娘さんの「加害者を刑務所に入れたい」という気持ちに全力で寄り添いたいという気持ちが、実を結んだのだと思いました。

しかし、本来、被害者がこんなに辛い思いをしなくても、捜査や裁判は行われるべきものです。まだ一部の警察でこのような扱いがなされていることはとても残念です。今回はたまたま、「絶対にこの事件は立件されるべきだ」と思ってくれた捜査関係者に出会えたおかげで加害者を刑務所に入れることができましたが、偶然でしかありません。

私自身、何度も「無理かもしれない」と思いました。それでも、立件が難しい未成年者の性被害で、客観証拠がある数少ない事件なのだから、絶対に諦めたくなくて、もがき続けました。

今振り返ると、この事件が闇に葬られたかもしれなかったことには、身震いするような思いです。そのようなことがないように、これからも「諦めない」気持ちで被害者に寄り添っていきます。

犯罪被害者代理人
上谷 さくら
犯罪被害者代理人
2025年10月17日発売
1,100円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-08-721383-6

あなたを守ってくれる人を知っていますか?

日本では女性の12人に1人が性犯罪の被害者になり、一年間で350人に1人が交通事故により死傷している。

犯罪は、いつどこでも起こりうる。
思いがけず犯罪に巻き込まれた時、被害者側に立って司法手続きやマスコミ対応などに尽力する弁護士が「犯罪被害者代理人」だ。

性犯罪、交通事故、連続殺人など、さまざまな事件の被害者を支援している弁護士の著者が、日本ではあまり知られていないその仕事について実例とともに紹介。
被害者が直面する厳しい現実から、メディアの功罪、警察や司法の問題点にいたるまで解説する。

誰もが当事者になりうる現代における必携の一冊!

【目次】
序章
第一章 被害者代理人の仕事
第二章 心の被害回復を目指して――性犯罪被害者の代理人として
第三章 損害賠償・経済的支援――お金を受け取るのは当然の権利
第四章 メディアの功罪
第五章 家庭の中の犯罪被害――ドメスティックバイオレンス(DV)
第六章 代理人としての「資格」――共感力・想像力・提案力
第七章 立ち遅れる被害者支援と課題
終章

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