問われる取材姿勢

既存メディアは企業ですから、数年で異動などにより担当者が変わるのはやむをえません。しかし、その弊害が被害者取材に表れます。

例えば、焼肉酒家えびす事件は、事件が発生して刑事事件の不起訴が確定し、その後、店を経営していた会社の破産手続きが終了するまで約12年を要しました。そうすると、事件が起きた時は小学生だったので、事件自体を知らなかったという若い記者が取材に来ることもあります。

そのこと自体はその記者の責任ではありません。ただ、今はネットで簡単に過去の事件を調べることができます。破産手続きとは何か?ということも大まかなことは分かるはずです。それすらすることなく、「何も知らないけれど教えてください」と言ってくる記者もいますが、それは仕事とは言えません。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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また、社内で全く引継ぎがなされておらず、「ご遺族の名前と生年月日を教えてください」と言われることもあります。これまで久保さんは記者に対し、何度自分のフルネームと漢字、生年月日を言わなければならなかったでしょうか。

社によっては、異動していても「この事件だけは自分が続けることになっています」と言って継続的に取材に来る記者もいます。それはご遺族にとっても嬉しいことですし、私も記者の人となりや記事の書き方が分かっているので安心して対応できます。事件発生時から取材していて事件全体を俯瞰することができるので、付け焼刃の取材で書いた記事とは雲泥の差です。今後は、こういう仕組みが普通になってほしいと思います。

などと偉そうなことを言っていますが、私も記者時代は、右も左も分からないことばかりで、本当に多くの方からさまざまなことを教えてもらい、助けてもらいました。

例えば、司法に関する記事を書くのは専門的なことが多くて難しく、事件を担当する弁護士さんにはお世話になりました。懇切丁寧に素人の質問に付き合っていただいたことは、今でも感謝しています。

弁護士になって取材を受けるという逆の立場になってみると、メディアに間違った情報を流されると困るので親切に応じてくれたんだと分かります。両方の立場が分かる身としては、可能な限り協力し合うことが、よりよい社会を作り、ひいては被害者のためにもなると考えています。

犯罪被害者代理人
上谷 さくら
犯罪被害者代理人
2025年10月17日発売
1,100円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-08-721383-6

あなたを守ってくれる人を知っていますか?

日本では女性の12人に1人が性犯罪の被害者になり、一年間で350人に1人が交通事故により死傷している。

犯罪は、いつどこでも起こりうる。
思いがけず犯罪に巻き込まれた時、被害者側に立って司法手続きやマスコミ対応などに尽力する弁護士が「犯罪被害者代理人」だ。

性犯罪、交通事故、連続殺人など、さまざまな事件の被害者を支援している弁護士の著者が、日本ではあまり知られていないその仕事について実例とともに紹介。
被害者が直面する厳しい現実から、メディアの功罪、警察や司法の問題点にいたるまで解説する。

誰もが当事者になりうる現代における必携の一冊!

【目次】
序章
第一章 被害者代理人の仕事
第二章 心の被害回復を目指して――性犯罪被害者の代理人として
第三章 損害賠償・経済的支援――お金を受け取るのは当然の権利
第四章 メディアの功罪
第五章 家庭の中の犯罪被害――ドメスティックバイオレンス(DV)
第六章 代理人としての「資格」――共感力・想像力・提案力
第七章 立ち遅れる被害者支援と課題
終章

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