ものまね芸人とご本人との微妙で複雑な関係
ここまでくると「なんのこっちゃ」というか、関係のないご本人にとっては災難でしかないわけだが、人気バラエティー番組『水曜日のダウンタウン』(TBS)の演出を務める藤井健太郎氏が、RYOの騒動に触れてXに投稿した「歌マネや声マネなどと違い、ひとつも努力せずに売れてしまうことがあるため、そっくりさん系のモノマネ芸人にはヤバい人が多めに含まれているのは有名な話」というポストが説得力を増す。
思い返せば、ものまねブームの一時代を築いた『ものまね王座決定戦』(フジテレビ)には「ご本人登場」という名物企画があった。伴奏が続くなか、ものまねされた本人が舞台裏から現れるドッキリ的演出で、男性ゲストの第1号はコロッケのものまねで再評価を得た美川憲一。
美川はのちのインタビューで、コロッケに「自分のものまねをやるよう勧めた」と明かしている。女性の第1号は青江三奈さんで、清水アキラがハスキーボイスで誇張して歌う『伊勢佐木町ブルース』(1968年)に降臨。
こちらも『ラーメンブルース』(1991年)というデュエット曲をリリースするなど交流を育んだ。ものまね四天王時代はバブル期であったこと、また、ものまね番組に懐かしい芸能人の再生工場の機能があったことなどから、ご本人と密接な関係を築いていたといえる。
一方、ものまね第三世代と呼ばれる次の世代では、ご本人との距離感はやや遠のいた。タモリのものまねでブレイクしたコージー冨田は、素人時代に『笑っていいとも!』の出演はあったものの、コージー冨田名義でのタモリとの共演はおそらくない。
原口あきまさは2003年頃に研ナオコの紹介で明石家さんまと面会しているが、テレビでの直接共演は、ほいけんたと共に出演した2015年2月の『さんまのまんま』(関西テレビ)を待つことになった。この背景には、ものまね対象が大御所であることのほかに、歌ではなく“憑依芸“とも呼べる、ものまね芸の細かさを特徴としている芸人であることが関係しているかもしれない。
例えば、コージーによるタモリの「髪切った?」というお馴染みのフレーズは、「タモリは目の前の変化をよく口にする」という性質を分析したコージーが、ものまね番組でMCのヒロミにとっさアドリブで口にしたもので、タモリの言葉ではない。
だが、いかにもタモリが言いそうなセリフだと世間も感じたのでここまで広まった。
実際、今年9月19日に放送された『ミュージックステーション』(テレビ朝日)では、ヘアスタイルをチェンジしたというガールズグループ・XGのCHISAから「“恒例の”髪切ったを……」とおねだりされ、それを受け入れつつも「俺はあんまり言わないんだけどな」とボソりと呟いていた。完全否定してはいないが、複雑な思いは少なからずありそうだ。