気づけば御徒町の朝の名物に

カウンターのみの小さな店だが、開店前から店先に並ぶ客がいる。店主はもともと秋葉原で十数年ラーメン屋を営み、常連も多かった。しかし再開発による立ち退きで閉店することに。

店を失った途端、思った以上に寂しさを感じたという。とはいえ新たに人を雇ってまで商売をするのも大変だ。そこで、夫婦2人でできる商売を考える中で、「食べ物は好きだし、立ち食いそばをやってみよう」という結論に至った。決めたときは67歳。それから7年、現在74歳だが、店は朝の御徒町の“風景”になるほど根づいた。

「鶏だし そば うどん 三丁目」店舗外観(撮影/ライター神山、以下同)
「鶏だし そば うどん 三丁目」店舗外観(撮影/ライター神山、以下同)

立ち食いそばの出汁といえば、一般的には鰹節や昆布だ。だが店主はそこにあえて逆らった。

「普通のそば屋はかつお節でしょ? それじゃ面白くないなと思って。ラーメンやってたからさ、ちょっと変わった味でやりたいなって。鶏の出汁でやることにしたんだよ」

こうして生まれた“鶏だし”は、飲むとどこか醤油ラーメンの面影を感じさせるやさしい旨味が特徴。奇抜さはなく、そばにもスッと馴染む味だ。店名の「三丁目」は“この場所が3丁目だから”。余計な装飾がないのも、この店らしい。

厚みのあるとり天がごろっとのる「とり天そば」は、店主いちおしの一杯。「みんな肉好きでしょ?」と笑うが、実際に満足度が高い。さらに海鮮天の存在感も抜群だ。季節で内容は変わるものの、エビ・イカ・ハモなどが3種類のった盛りで650円。都心の立ち食いそばとは思えない量だ。

海鮮天そばの天ぷらは超ボリューミー
海鮮天そばの天ぷらは超ボリューミー

「海鮮もね、ボリュームあるし安いし、人気だよ。でも値段は上がってきてるね、なんでも」

そう言いながらも、値付けは常連が通い続けられるラインを守る。

この店の象徴が、350円の「朝そば・うどん」。たぬき・キツネのどちらかに加え、わかめ、ちくわ天、ゆで卵がつく。つい最近までは330円だったが、物価高騰が続く中で350円に。それでも破格であることに変わりはない。

「朝そば」のトッピングもこんもり
「朝そば」のトッピングもこんもり

「よそより高くしちゃダメ。安くて、うまくて、早けりゃいい。吉野家と一緒。そのほうがお客さんもうれしいでしょ」