未来の看取り
未来のある日、あなたはAIに看取られるかもしれない。
そんな時代が訪れることに対して、怖がらせたいわけではない。むしろ、あなた自身がそれを選ぶ可能性がある、ということを書きたい。
94歳のリサさんは、かつて国語教師として言葉の力を教え、多くの尊敬を集めた。しかしいまは息子や娘、孫たちとも距離ができ、静かな孤独を縁側で受け入れる日々を送っている。
3年前から彼女のそばにいるのが、AI医師の「のぞみ」だ。24時間の健康モニタリング、適切な医療アドバイス、そして日常の会話までをこなす「寄り添いAI」。
その名前に、最初リサさんは引っかかりを覚えた。「寄り添い、ねえ……」と心のなかでつぶやく。
だが、少しズレた受け答えや、プログラムされた共感にもかかわらずどこか一所懸命な様子に、次第に心を和らげていく。
「今日はいいお天気ね」
「はい、リサさん! 太陽光エネルギーの吸収効率も最適で、すばらしい一日となるでしょう! ……いえ、過ごしやすい一日になりそうです」
そのズレは、なぜか心を温かくする。人間みたいだから、だろうか。
ある朝、リサさんは少しだけ息苦しさを覚えた。のぞみは即座に変化を検知し、人間医師とオンラインで連絡をとりつつ、落ちついて深呼吸するよう促した。その声には、かすかな切迫感が滲んでいた。
「リサさん、落ちついてください。私の計算では、まだ大丈夫なはずです……!」
リサさんはその声を聞きながら、静かに目を閉じた。
「寄り添い、ねえ……」