介護職員は「足りない」のに「減っている」…AIは人手不足・高齢化する訪問介護の救世主となり得るのか
介護業界の人手不足は、特に「訪問介護」の現場において深刻さを極めている。人手不足の介護現場を救う切り札として、国が旗を振って「介護ICT化」(Information Communication Technology化)を進めてきた。こうしたテクノロジーの活用は人手不足を解決する切り札となり得るのか。
『AIに看取られる日 2035年の「医療と介護」』より一部抜粋・再構成してお届けする。
2035年の「医療と介護」#3
複雑すぎる介護制度
技術の活用がままならない一方で、介護制度そのものの「わかりにくさ」が現場と利用者の両方を疲弊させています。
介護保険制度が始まったのは2000年。以降、制度は何度も手が加えられてきましたが、その過程は問題が出るたびに追加、改正が繰り返され、まるで建て増しの古い病院のような複雑な構造になってしまいました。
制度を構成するサービスは多岐にわたり、それぞれが異なる法律を根拠としています。さらに、要介護度によって利用できるサービスが細かく分かれていて、一般の人にはわかりにくい。それどころか医師だって、ろくにわかっていません。特別養護老人ホーム(特養)ひとつとっても、「要介護3以上でないと入れない」といった制限があったりするのです。
一方で、2000年代以降に急増した「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」のように、国が器(建物)だけを整備し、中のサービスは民間にお任せという形も生まれました。結果として、富裕層向けの施設は増えても、一般高齢者の受け皿は不足する一方になっています。全体像が見えないほど複雑で、誰も使いこなせない制度は早急に改善が求められます。
介護現場に必要なのは、新しい仕組みより、まず「わかりやすい制度」だと思うのです。制度の混乱は、テクノロジー導入の障壁にもなる。事業者側にしてみれば、「この機器を入れればどのサービス区分に該当するのか」がわかりづらく、加算条件すら読み解けません。
*1 厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
*2 厚生労働省「介護職員数の推移の更新(令和5年分)について」
*3 公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査」2024年7月
https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/
*4 厚生労働省「第220回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料」
文/奥真也
『AIに看取られる日 2035年の「医療と介護」』(朝日新聞出版)
奥真也
2025年9月12日
957円(税込)
216ページ
ISBN: 978-4022953346
テクノロジーはどこまで人間に寄り添えるか?
10年後、日本の病院はここまで変わる!
無人診察室、がんワクチン、AIの誤診、人手不足を解決する介護DX……
いま知っておきたい、教養としての医療とAI
画像診断や創薬など、医療にAI技術が導入されるようになって久しいが、
今後この流れはますます加速し、診療や介護、看取りの場面にも
AIは欠かせない存在となる。
かつて人間医師の“聖域”とされた「対話」「寄り添い」「見守り」といった領域にも
容赦なくテクノロジーが入り込んだとき、医師に残された役割とは何か。
私たち患者の命の扱われ方はどう変わるのか。
そして、この大変革は人手不足や医療費膨張をはじめとする
日本の医療問題を解決へ向かわせるのか。
はたして死角はないのだろうか――。
未来の医療が描く、これからの生き方、死に方とは?
直面する変化と課題、打開策を最新研究から論じる。
【目次】
序 章 AIに看取られる日
・介護から看取りへ――10年後のAIとDX
・「人間中心の医療と介護」からの再構築
・日本の医療制度が抱える問題 ……ほか
第1章 なぜ「医療にAI」なのか
・医師とAIの主従関係は逆転する
・ヤブ医者も「名医」もいなくなる
・AIが変える診察室の風景
・AIの進歩で誤診が増える? ……ほか
第2章 患者のビッグデータが治療を変える
・ビッグデータで超早期にがんを発見
・便座で、鏡で、生体データを収集
・医療情報と収入データを紐づける
・AI医師が誤診したら誰が責任を負うのか? ……ほか
第3章 AIだけじゃない! 2035年の医療技術
・バイオプリンティング:3Dプリンターで身体の部品を作る
・デジタルツイン:治療を「仮想の自分」で試す
・がんワクチン:自身の免疫をがん専用兵器に育てる
・長寿遺伝子と老化細胞除去:細胞から若返る ……ほか
第4章 AIは医療費問題を解決するか
・美容外科への人材流出=「直美(ちょくび)」問題
・医療費削減のカギはOTC薬
・デジタル治療アプリ(DTx)の可能性
・ChatGPTへの相談で医療費削減? ……ほか
第5章 これからの人間医師の役割とは何か
・人間医師の「聖域」
・患者の経済状況に合わせた治療の提案
・「病院=儲かる」は過去の話
・ミニマムDXで始める未来のクリニック ……ほか
第6章 未来の介護と「寄り添い」
・高齢化する訪問介護の支え手たち
・ICT化できない現場
・バイアスだらけの要介護認定
・介護現場のハラスメントはなぜ起こるか ……ほか
第7章 「死ねない時代」の安楽死・再論
・安楽死を語るとき大切にしたいこと
・日本では医師任せの「グレーゾーン」
・自殺幇助と積極的安楽死を合法化すべき理由
・死を語ることの忌避感を乗り越える ……ほか