「仕事が忙しい」自ら命を絶つ介護職員も

2021年2月中旬、関東郊外にある2階建てのアパートを訪ねると、引っ越し業者の作業員数名が、部屋の中の荷物を慌ただしく搬出していた。この部屋に住む吉田健司さん(仮名・享年41)が息を引き取ったのは同年1月のことだ。吉田さんは自宅の浴室で練炭を使い自ら命を絶った。

この日、離れて暮らす親族らが、吉田さんの部屋を片付けるために上京しており、その合間に、親族の1人が私の取材に応じてくれることになっていた。

生前、吉田さんは大手介護関連企業の社員として働いていた。勤務先は自宅から自転車で10分ほどの場所にあるグループホームだ。グループホームとは、介護が必要なお年寄りが、少人数で共同生活を送る介護施設のこと。その施設で吉田さんは施設長を任されていたという。

遺体の第一発見者は、吉田さんの職場の同僚だった。この日、出勤するはずの吉田さんが職場に姿を見せないことを不審に思った職員は、何度か彼の携帯電話に架電したが繋がらなかった。午後3時頃、吉田さんの自宅を訪ねると、玄関の鍵が開いていた。部屋の中に入ると、浴槽のドアに白いA4の用紙が貼られており、大きな字でこうタイピングされていたという。

〈一酸化炭素中毒に注意〉

ドアを開けると、そこには変わり果てた吉田さんの姿があったのだ。

介護職のブラックな実態「夜勤明けにそのまま日勤」「盆正月も休みなし」慢性的な人手不足で過重労働が常態化、自ら命を絶つ職員も…それでも「会社は人を入れてくれない」_1
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司法解剖の結果、死亡推定時刻は同日午前10時頃。命を絶ってから約5時間後に吉田さんは発見されたことになる。吉田さんの親族は後日、第一発見者の職員にお礼をいうため電話をかけた。だが、対応した職員の何気ないこんな一言に、強い違和感を覚えたという。

「(健司さんは)肩の荷が降りたような、ほっとした表情をされていましたよ」

肩の荷が降りた─。一体どういう意味なのだろうかと親族は思った。同時に、吉田さんが度々こう漏らしていたことを思い出したという。

「仕事が忙しい」

施設長という責任ある立場であれば忙しいのも当然だろう。だが親族の話によると、吉田さんから来たLINEや過去の言動などから、度を超えた過酷な労働を強いられていた可能性があると感じたという。

例えば、吉田さんから送られてきたある日のLINEには、夜勤明け、そのまま日勤に就いていることが記されている。

さらに前年のお盆や年末、そして2021年の正月も、実家に帰省できないほど多忙を極めていた。職員が休むと施設長である吉田さんしか穴を埋める者がいなかったという話もあった。そうしたことから親族は、過酷な業務が常態化していた可能性が高く、こうした状態を放置していた会社に不信感を抱いたのだった。