噛まれて腕にアザ…胸を触られたり、「やらせろ」といったセクハラ発言も 

カスハラの対策を事業主に義務付ける「改正・労働施策総合推進法」などが6月4日、参院本会議で可決し、成立した。2026年中の施行を目指す。厚労省が今後、具体的な方針を出すものの、労働者からの相談体制を整備することなどが予定されているという。

高齢化社会でより重要さが増している介護職では、前々から介護士らに対するハラスメントが横行していた。

「“死ね”と俺は言われたことないけれど、“バカ”とか、罵倒語はよく言われる。同僚の若い人は、80代のおばあさんに抱きつかれたりしている。(上司に報告は)してないね。やっぱそういうもんだと思っているから」

そう語ってくれたのは、介護職を5年以上続けている30代男性。都内の特別養護老人ホーム(特養)でアルバイトとして働いており、手取りは月に20万円程度だという。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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男性が勤める特別養護老人ホームでは、常時介護が必要で、在宅生活が難しい人などが入所している。なかには認知症が進んだ老人もおり、症状の一つである妄想により、急に噛みつかれて腕にアザができることは「珍しくない」と明かす。

上司に相談しないのはなぜかーー。

男性は「上手にかわせて、当たり前。職場にはそんな価値観をもっている人がいるから」と話す。アドバイスを受けても、「気をつけて」「うまく聞き流して」だけに留まるという。

「お金はそこそこ貰える。夜8時から次の日の朝10時まで泊まりで働くと、1回の夜勤で2万4千円になる。ただ、それと引き換えにメンタルがやられてしまい、すぐに辞めてしまう人も多い。最近辞めてしまった20代の女性は、おじいさんからトイレへ行くたびに胸やおしりを触られていた。『よけるのに疲れた』と不満をもらしていた」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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介護歴が35年以上の藤原るかさん(69)は、都内で訪問介護に従事している。訪問介護では、介護士が利用者の自宅へ行き、入浴や排泄(はいせつ)、食事や洗濯といった生活支援をする。

介護の現場に長年いる藤原さんは、これまで見てきたカスハラの実態を一冊の本「介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント」(幻冬舎新書)にまとめた。

「『やらせろよ』『昨日はやったのか?』と聞かれたことは、数えられないほどあります。触られそうになると、上手くかわして状況を防ぐことはできます。けれども、言葉は無理。聞き流すしかない」

ほかにも「性器を洗って」と言われたり、キスを迫られたり、なかには自慰行為を見せてくる人もいた。メールの連絡網には「相手に後ろ姿を見せてはいけない、ドアは開けたままにすること」と注意事項が書かれていたことがあるという。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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「今後、ますます高齢化が進み、要介護者が増えてくる。人材不足が懸念されているからこそ、賃金などの労働環境を整備する必要がある」(藤原さん)

厚労省によると、2023年度の訪問介護の有効求人倍率は14.14倍と高く、介護士の人材不足が顕著だ。

前出の特養で働く男性と異なり、訪問介護では生活援助の報酬削減やサービス提供の時短化が行われている。2024年度からの介護報酬改定では、全体で1.59%の増額。ところが、在宅介護の主要サービスである訪問介護の基本報酬は、2~3%引き下げられた。藤原さんは「崖っぷちにいます」と心中を吐露する。