草取りをして見えてくる社会
公園内の木道に積もった落ち葉の掃除は9年ほど続けている。始めた当初、年配男性の威圧的な声が降ってきた。
「どけ、邪魔だ」
下を向いて作業していたので、男性の真っ白いスニーカーだけが見えたという。佐野さんは「命令ばかりしてた人なのかね」と苦笑いする。
今年の春からは歩道の草取りも始めた。作業は早朝からスタートする。
「いつもやっていますね」「ご苦労様です」
散歩をする人たちに、ねぎらわれることも多い。佐野さんの体を心配して、毎回、水を持ってきてくれるおばあちゃんもいるそうだ。
週末になると親と一緒に公園を訪れる子どもに、よくこう聞かれる。
「何しているの?」
「何していると思う?」
佐野さんはすぐ答えずに、自分で考えさせるという。そして、「やる前とやった後と比べてどう?」と聞くと、子どもはうれしそうに答える。
「あ、キレイになってる!」
玄米のおにぎりを30数個作り、ホームレスの人たちに届けることも続けている。11年前の大みそかに新宿駅でホームレスの路上死に遭遇した経験が、のちにホームレス支援をしている人たちと知り合うきっかけになったのだ。
「今は自分がやれることをね。できないときはやらないし、できるときはやりたいなと思ってさ。それだけだよ」
「佐野さんって、哲学者みたいですね」と言うと、「実践する哲学者だな」と笑う。自然ないい笑顔だった。
〈前編はこちら『「父親はヤクザ、母親に抱かれた記憶もない」ヘドロの川に面した6畳間で育った63歳の“逃げ続けた人生”』〉
取材・文/萩原絹代