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人生の最後に自分の正体を知りたくなった63歳のひきこもり男性が“笑う練習”をしたら…愛着障害を乗り越え、“草取り”で歩んだ社会復帰への道
父親はヤクザで、母親に抱きしめられたこともない。佐野靖彦さん(63)は幼少期に親から十分な愛情を受けられず、大人になっても他人を信頼できなかった。同僚ともうまくいかず無断退職をくり返す。経済的にも困窮し、うつ状態になり何度もひきこもった。なぜうまく生きられないのか。原因を知りたいと動いたことで、絶望を抜け出す――。(前後編の後編)
ルポ〈ひきこもりからの脱出〉32
〈前編〉
生きづらかったのは、あなたのせいではない
ある日、佐野靖彦さん(63)が向かったのは区役所だ。双子の兄に生活保護の申請を勧められたのだ。
幼いころ祖母に引き取られた兄とは別々に育てられ、佐野さんが兄と初めて会ったのは小学6年生のとき。兄は大学を中退して関東の生協で働いていたが、うつ病を患い、生活保護を受給していた。ちなみに弟は生後すぐにアメリカに養子に出され、生死すらわからない。
佐野さんは怯えながら窓口を訪れた。兄からは「議員と一緒に行け」とアドバイスされたが、地元の区議に断られてしまい、泣く泣く1人で行ったのだ。