笑う練習をして感情を取り戻す

10回目のカウンセリングで「佐野さんは表情がないね」と指摘され、子どものころから感情を押し込めて生きてきたことに気が付いた。

すぐにテレビで喜劇映画などを観て、笑う練習を始めたという。佐野さんは「最初はフッフッて感じよ」と再現してくれたが、片方の頬がゆがんだ苦笑にしか見えない。

「1か月ぐらいして、近所中に響き渡るような大声で笑えるようになってな。自分で考えてやったことがうまくいって成功体験だと思えた。自分に自信がついたら、それをきっかけに感情がドッと出てきてさ。親に対する怒りとかも出てくるようになったよね。なんであのとき、抱いてくれなかったのって。

自意識が変わると、絶望からひっくり返るのは早かった。ただ、愛着障害っていうのは、一生付きまとうもの。だから、時間をかけて折り合いをつけていくしかないんだよね」

今では自然に笑えるようになった佐野さん
今では自然に笑えるようになった佐野さん

その後に佐野さんが始めたのは、幼少期からの生育歴を思い出して書き記すこと。『私の60年とライフエピソード』と書かれた分厚いファイルを見せてもらうと、失敗も挫折も何一つ隠すことなく、詳細に書かれていた。