なぜオーバードーズしたのかわからない
ひきこもって1年以上経ったある日、石丸さんは双極症の薬や睡眠導入剤などを大量に飲んでしまう。
2階の自室からふらふらしながら1階のリビングに降りて来て、そのまま倒れて救急搬送。ICUで治療を受けた後に腸閉塞も発症してしまい、重篤な状態だった。
「死にたかったわけではないし、なんでオーバードーズをしたのか、自分でもわからないんです。親には愛されていたし、私が死んだら親が悲しむのはわかっていたから。ただ、ずっと私の存在だけ世界から消えないかなとは思っていました。そんなメルヘンみたいなこと、現実には叶いませんが」
母親はリウマチの持病があり車椅子生活だったので、1階のリビングで寝起きしている。退院すると、「心配だから目の届くところにいて」と言われた。母親の寝ている横で石丸さんが明け方までパソコンをいじり、昼過ぎまで寝ていても、何も言われなかったそうだ。
精神的に落ち着くにつれ「働かなきゃ」という思いが湧いてきたという。友だちのライブに行くなど、少しずつ外に出る機会を増やして、調理のパートを見つけて働き始めた。
「ひきこもっていた2年間、自分が何もしていないことに、ずっと劣等感を感じていたんです。外に出て、人と会おうとしても『何をしているの?』と聞かれるのが怖くて。私にとって働くことはパスポートじゃないけど、外に出るために必要な要素だったんですね」
調理のパートは朝9時から午後2時までの短時間だったので、無理なく働けた。
4年ほど続けたが、経済的に自立できず親に甘えている後ろめたさが消えない。フルタイムの仕事を探して転職したのだが、仕事が辛くなり再びオーバードーズをしてしまう。
〈後編へ続く『「明日を回避したかった」…2度のオーバードーズ、3回のひきこもりを経た46歳女性が絶望の底を突いて見えた“自分のリカバリー”』〉
取材・文/萩原絹代