「性別はどっちでもいいじゃない」
——『環と周』の第1話は、母親が「娘が女の子とキスをしているところを目撃する」シーンから始まります。これはどういう意図があったのですか? 同性愛が主軸にくるのかなと思ったのですが、そうではありませんでした。
『環と周』は、ひとことで言うと、環と周が輪廻転生しては、いろいろな関係で出会い、さまざまな「好き」で繋がっていくオムニバスです。なので、同性愛がメインテーマではありません。さまざまな「好きのかたち」のひとつ……といいましょうか。
冒頭のシーンは、「親目線で言うと、子どもがキスしている姿を見るのは驚くよね」という“あるある”です。
——たしかに、第1話が現代の夫婦、第2話は明治時代の女学生同士、第3話はアパートのご近所さん……それぞれが多様な「好き」で繋がっていますね。どういうきっかけで連載が決まったんですか?
実は『環と周』は、16年前に連載をしようという話になっていて、すでに骨子はできている状態でした。
——なぜそのときに連載が始まらなかったのでしょう?
『大奥』が軌道に乗り始めて、「転生モノをやってみたい」と思ったタイミングで『きのう何食べた?』が決まったんです。自分の中で「同時連載は最大2本まで」と思っているので、集英社さんに待っていただいていました。
『きのう何食べた?』は4〜5巻で終わると思っていたのですが、まったく終わりが見えない(笑)。逆に『大奥』が先に完結し、結果として16年間お待ちいただく形になってしまいました。
——16年も寝かせると、時代にマッチしなくなるリスクがありそうです。当初考えていた設定や描写で変更した点はありますか?
いくつかあります。たとえば、16年前は「男はこっちで、女はこの名前」という想定をうっすらしていたのですが、連載を始めるときにやめました。
——それはなぜですか?
やはり時代の流れです。「性別はどっちでもいいじゃない」となりました。「環」と「周」はそれぞれ「転生する」という暗示でもあるのですが、とにかくユニセックスな名前にしたかった。
あと、『環と周』全5話の中には異性愛モノが2話あるのですが、異性愛も友情や親心みたいな感情と並列にしたいと思っていたんですね。なので、異性愛モノの2話は「環くん、周さん」「環さん、周くん」のように男女シャッフルすることで、少しでもニュートラルな物語になったらいいなと思いました。