トイレから出たところで死んでいた高齢者、死因は…

「高齢者が、自宅のトイレから出たところの廊下に、下半身裸の状態で死んでいるのを家族が発見しました」

警察からこうした検案依頼の連絡を受けて、現場へ行く機会は少なくありません。

「うつ伏せの体勢で、手に携帯電話を握りしめていました」といった現場の状況もよく報告されます。

またこのような状況のとき、便器内に用を足した痕跡がない、もしくは用を足していても少量だけ、という点で共通していることが多いです。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)
すべての画像を見る

ところで、人は死亡すると心臓の停止に伴って血液の循環が停止し、重力に従って体内の低い位置に血液が移動します。仰向けに亡くなった方であれば背中に、うつ伏せで亡くなった方であれば胸や腹部あたりに体内の血液が溜まるわけです。

溜まった血液は外表から観察することができますが、これを「死斑」といいます。死斑が出ている部位や色調、発現の強さを観察することで、死後の経過時間だけでなく、死亡状況や死因を判断することができます。

特に、死斑の色調が赤黒く、濃く発現している場合、病死であれば脳血管系疾患、いわゆる「脳卒中」が強く疑われます。

先ほどのようなトイレから出た状態で亡くなっている人は、死斑が顔面や身体の前面に赤黒い色で濃く発現していることが多いのです。

また、ご遺体をつぶさに観察すると、膝に擦りむいたような痕が確認できることがあります。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

現場検証をした警察からすると、助けを求めているように見えるので事件性を疑いたくなるようですが、私たち法医学者は「脳血管系疾患による病死ですね」とアッサリ判断することになります。